まれなドライバー遺伝子変異のある腫瘍への新しい標準治療

ファーストライン治療のブリガチニブ:ALTA-1L試験

ALK陽性NSCLCの治療におけるファーストラインの標準治療が、第一世代のALK阻害薬クリゾチニブから次世代のALK阻害薬に変わりつつある。多施設共同非盲検ランダム化試験、ALTA-1L試験の第Ⅲ相試験で、未治療患者へのALK(ROS1)阻害薬のブリガチニブ使用について評価した。中枢神経系の転移に優れた作用があるブリガチニブを、この群に割り付けられた患者(n=137)には180 mgを1日1回投与し(導入期の最初の7日間は90 mgを投与)、対照のクリゾチニブ群に割り付けられた患者(n=138)にはクリゾチニブ250 mgを1日2回投与した。ALK融合遺伝子の判定には、実臨床で行われているように複数のALK融合遺伝子検査を行った。各群の患者のおよそ30%には、ベースライン時に無症候性脳転移が見られた。どの治療ラインかを問わず、これまでに化学療法を受けていても組み入れることにした。局所進行性がんもしくは転移性がんのある患者の27%が、これまでに化学療法を受けていた。 

2018年度世界肺癌学会議では、CamidgeらがALTA-1L試験で予定していた1回目の中間解析結果を発表した[1]。9〜11か月間追跡調査を行った時点で、主要評価項目の結果がそろっていた。独立評価委員会(BIRC)が盲検下で評価したPFSは、ブリガチニブ群にクリゾチニブ群以上の改善が見られた
(ブリガチニブ群は判明せず、クリゾチニブ群9.8か月、HR:0.49、p=0.0007、図1)。12か月後に増悪が認められなかったのはブリガチニブ群で67%、クリゾチニブ群で43%だった。ブリガチニブは化学療法を受けたことのある患者のPFSも(ブリガチニブ群は判明せず、クリゾチニブ群11.0か月、HR:0.35、p=0.0207)、受けたことのない患者のPFSも改善させる結果となった(ブリガチニブ群は判明せず、クリゾチニブ群9.8か月、HR:0.55、p=0.0095)。 

図1:ALTA-1L試験にて独立評価委員会(BIRC)が盲検下で評価したブリガチニブ群とクリゾチニブ群の無増悪生存率

図1:ALTA-1L試験にて独立評価委員会(BIRC)が盲検下で評価したブリガチニブ群とクリゾチニブ群の無増悪生存率

ブリガチニブの中枢神経系への臨床活性

ベースライン時にCNSへの転移があった患者の方が、それがなかった患者よりも病状の進行または死亡のリスクが低下していたことが、サブグループ解析で示された(HR:転移ありの場合 0.20、転移なしの場合0.72)。しかし、PFSのデータセットに関しては脳転移のある患者のデータの方がそろっており、特にクリゾチニブ群ではCNSへの転移のある患者が多く見られたため、前述の知見はベースライン時に脳転移のあった患者の病状の進行を、早期の異なるイベントとして強調しすぎている。追跡調査がさらに進めば、病状の進行に伴い早期あるいは後期に生じる転移に両薬剤がそれぞれどのように影響を及ぼすか全体像が判明するだろう。 

ORRに関しては両群の間に統計学的有意差はなかった(ブリガチニブ群
71%、クリゾチニブ群60%、p=0.0678)。奏効率の中央値はブリガチニブ群がまだ達しておらず(クリゾチニブ群は11.1%)、12か月後に奏効状態が持続している確率はブリガチニブ群が75%、クリゾチニブ群が41%である。CNS病変が測定可能な患者の場合、ブリガチニブの頭蓋内病変への奏効率が78%と、統計学的有意性をもって高くなった
(クリゾチニブ群29%、OR:10.42、
p=0.0028)。CNS病変が測定不能な患者も含めると、オッズ比は13.00に改善した(ブリガチニブ群67 %、クリゾチニブ群17 %、p<0.0001)。頭蓋内病変のある患者のPFSは、大きな統計学的有意差をつけてブリガチニブ群で改善した
(ブリガチニブ群は判明せず、クリゾチニブ群5.6か月、HR:0.27、p<0.0001)。 

ブリガチニブの忍容性は高く、投与量を減量した場合の主な理由は、治験実施計画で求められる無症候性の臨床検査値異常(クレアチンホスホキナーゼ、リパーゼ、アミラーゼの上昇など)があった場合だった。クリゾチニブ群でAEの発現が数多く見られたが、ブリガチニブ群に見られたのは消化器系のAE、トランスアミナーゼ上昇、徐脈、浮腫、視力障害などだった。間質性肺炎(肺臓炎)が両群に見られたが、治療開始後14日以内という早期に肺臓炎を発症するのはブリガチニブ固有の副作用と考えられた。しかし、発現率はわずか3%と、クリゾチニブ群の投与終了後に見られた発現率の半分である[2]。ブリガチニブはALK陽性NSCLCへの新たなファーストライン治療の選択肢になりうると、著者らは結論づけている。 

METエクソン14スキップ変異陽性NSCLC:テポチニブ

NSCLC症例のおよそ3%にはMETがん原遺伝子の変異があり、mRNAのプロセシングの過程でMETエクソン14スキップ変異を生じさせる[3、4]。METに対して高い選択性を示す経口阻害薬として、テポチニブが開発された。METエクソン14スキップ変異陽性を認める進行NSCLC患者を対象にテポチニブについて評価する、VISION試験の単群第Ⅱ相試験で得た中間解析データからは、テポチニブ500 mgを1日1回投与した場合の臨床活性に期待が持てることが示された[5]。患者にはファーストライン、セカンドライン、サードラインとして投与した。有効性の解析対象は40人、安全性の解析対象は46人とした。METエクソン14スキップ変異陽性と判定されたのは、リキッドバイオプシーで60.9%、腫瘍生検で80.4%、両生検で43.5%だった。

奏効に至ったと独立評価委員会が判定したのは35.0%、治験責任医師が判定したのは57.5%である。病勢コントロール率については前者が62.5%、後者が72.5%としている。奏効期間の中央値は14.3か月だが、このデータはまだ完全にそろっていない。テポチニブの忍容性は高く、治療期間の中央値は4.7か月である。発現率が最高レベルだったAEは末梢浮腫と下痢で、大半の症例は軽度または中等度だった。AEの発現により患者の15.2%が投与中止となった。この試験の参加者募集はまだ締め切っていない。 

METエクソン14変異へのクリゾチニブの効果

ALKおよびROS1への効果は別にして、クリゾチニブもまた強力なMET阻害薬である。多施設共同試験であるPROFILE 1001試験の第I相試験では、MET遺伝子を直接標的とする治療を受けたことのないMETエクソン14変異陽性進行NSCLC患者の用量拡大コホートに、クリゾチニブを250 mgを1日2回投与して評価した。患者65人に行った最新の解析によると、クリゾチニブの投与でORRが32%となっている[6]。65人のうち3人(5%)が完全奏効と判定された。奏効期間の中央値は9.1か月、PFSの中央値は7.3か月である。データカットオフ時点で、OSのデータはそろっていなかった。 

METエクソン14変異陽性NSCLCには分子レベルの均一性がなく、治験実施施設によって遺伝子変異の型が大きく異なるため、各施設での分子プロファイリングの判定を探索的に解析することが解析上の重要点となった。最大で患者の20%にMET遺伝子増幅が同時に認められた。MET遺伝子エクソン14変異の不均一性やMET遺伝子増幅の有無にかかわらず、クリゾチニブの治療効果が解析結果から示され、その割合は7%となった。このサブセットにおけるクリゾチニブの総体的安全性も、前述したALK融合遺伝子陽性肺がんおよびROS1融合遺伝子陽性肺がんの安全性プロファイルと一致していた。MET遺伝子のエクソン14変異のスクリーニングを医療機関で行うことが重要だと、著者らは述べている。この試験で見られたように、腫瘍プロファイリングもしくは血漿プロファイリングを包括的に行うことで変異を検出することができる。クリゾチニブはMETエクソン14変異陽性肺がんの治療薬として、米食品医薬品局(FDA)よりブレークスルーセラピー指定を受けたばかりだ。 

ROS1融合遺伝子陽性肺がんへの新たな選択肢「エントレクチニブ」

ROS1融合遺伝子は、ドライバー変異のあるNSCLCの症例の1〜2%に見られている[7、8]。CNSに病変があるということは、ROS1融合遺伝子陽性肺がん患者のニーズに応えられていないということだ。クリゾチニブが現在の標準治療だが、この治療を受けた患者の病状が進行すると初めて転移する部位はCNSが多い。経口ROS1/NTRK/ALKチロシンキナーゼ阻害薬のエントレクチニブは、血液脳関門を通ってCNSに残るように設計されている。また、前臨床試験ではクリゾチニブに比べて、エントレクチニブがROS1融合遺伝子を阻害することが示された[9]。 

合計でROS1融合遺伝子陽性肺がん患者53人を対象にエントレクチニブを評価した、3件の臨床試験(STARTRK-2、
STARTRK-1、ALKA-372-001)の統合分析からは、同薬剤の有効性が示された[10]。ベースライン時にCNS転移巣があった患者となかった患者の双方に、深部にまでしっかりとした臨床的意義のある効果が全身に見られた。ORRは77.4%に達し、CNS病変のある患者では73.9%、
ない患者では80.0%だった(表)。奏効期間の中央値は24.6か月である。脳転移巣のある患者の55%に頭蓋内病変への効果が見られ、その効果は中央値にして12.9か月持続した。また、患者の20%が完全奏効と判定された。コホート全体のPFSは19.0か月である。CNS病変がある場合のPFSは13.6か月、それがない場合のPFSは26.3か月だった。エントレクチニブの忍容性は高く、安全性プロファイルもコントロール可能な内容だった。大半のAEも休薬もしくは減量で対応できた。治療関連AEにより投与中止に至ったのはわずか3.9 %であった。

BRAF遺伝子変異陽性腫瘍:ベムラフェニブ単独療法

NSCLC症例のおよそ2%には、ドライバー変異としてBRAF遺伝子変異が認められる[11]。そのため、ほとんどの治療ガイドラインはBRAF阻害薬の使用を推奨している。ダブラフェニブとトラメチニブの併用療法が耐えられない患者には、BRAF阻害薬のダブラフェニブまたはベムラフェニブの単独投与という選択肢がある。そこで、French National Cancer Instituteは、フランス全土のBRAF遺伝子変異陽性腫瘍患者にベムラフェニブを使えるプログラムを始めた。1つ以上の標準治療を行った後に転移性NSCLCに進行した患者を含めたNSCLCコホートに関する知見を、Mazièresらが2018年度世界肺癌学会議にて報告した。このコホートは、認可を受けている分子遺伝学センターにてダイレクトシーケンスもしくは次世代シーケンスでBRAF V600またはそれ以外のBRAF変異の解析を受けており、これまでにBRAF阻害薬とMEK阻害薬のどちらも投与されたことがない。V600遺伝子変異のある患者100人を解析した結果、V600以外の遺伝子変異のある患者は15人となった。このコホートは事前に治療を受けておらず、相当数の患者にパフォーマンスステータスの低下が見られる点が、実臨床の患者集団と一致している。脳転移巣の治療をしていれば解析対象とした。 

主要評価項目のORRは逐次ベイス推定で解析した。BRAF V600遺伝子変異コホートに対して解析を行った結果、ベムラフェニブ960 mgを1日2回投与した場合、逐次ベイス推定で求めた成功率が44.9%と、妥当な効果のあることが示された。なお、効果の持続期間は6.4か月である。PFSは5.2か月、OSは9.3か月だった。一方、V600以外の遺伝子変異のある患者には、ベムラフェニブの効果は認められなかった(逐次ベイス推定で求めた成功率は5.9%、PFSの中央値は1.8か月、OSの中央値は5.2か月)。安全性プロファイルはコントロール可能な内容で、発現率が最高レベルのAEは無力症、食欲不振、ざ瘡様皮膚炎、悪心だった。毒性により患者27人の投与を中止した。 

ここで得た知見をもとに、比較的奏効率が高いためダブラフェニブとトラメチニブの併用療法を優先するが、この併用療法に耐えられない患者もしくは、規制当局がこの併用療法を承認していない国では、ベムラフェニブ単独療法を検討する余地があると著者らは結んでいる。以上の結果を見ると、通常のバイオマーカー検査にBRAF V600遺伝子変異を含める必要のあることは明らかだ。 

表1

複数の治療を受けたことのある患者へのRET特異的阻害薬の抗腫瘍作用

固形がんにとってRETは、融合もしくは変異によって活性化することが証明されている、がん遺伝子である。NSCLCの場合、患者のおよそ2%にRET融合遺伝子が発現している。強力なRET特
異的阻害薬のLOXO-292は、
LIBRETTO-001試験の第I相試験でRET融合遺伝子陽性の局所進行性NSCLCや転移性NSCLCに、しっかりとした抗腫瘍作用を示した。本試験にはNSCLC患者38人が参加し、投与量を8通りに設定している。大半の患者は以前に化学療法もしくは免疫療法、あるいはその両方を受けている。これまでに受けた全身療法の数の中央値は3である。 

LOXO-292が患者の68%に奏効した。個体内漸増法を行うまでに、開始時の投与量すべてでRECISTガイドライン1.1版に記載の治療反応が認められた
(図2)。抗腫瘍作用は以前に受けた療法には関係していない。同試験には測定可能なCNS病変のある患者4人が参加しており、この4人全員に頭蓋内病変への奏効が認められた。データ解析の時点でもほぼすべての患者がLOXO-292の投与を続けており、奏効した患者の92%にその状態が続いていた。この92%の患者の大部分に奏効した状態が6か月以上続いた。RET遺伝子を特異的に阻害する設計となっていることで、安全性と忍容性の高さも見られた。LOXO-292は、F2018年にFDAからブレークスルーセラピー指定を受けている。複数のコホートを対象に、現在第Ⅱ相試験が行われている。

図2:RET融合遺伝子陽性NSCLC患者のLOXO-292療法への治療反応性

図2:RET融合遺伝子陽性NSCLC患者のLOXO-292療法への治療反応性

参考文献:

  1. Camidge DR et al., Brigatinib vs crizotinib in patients with ALK inhibitor-naive advanced ALK+ NSCLC: first report of a phase 3 trial (ALTA-1L). WCLC 2018, PL02.03
  2. Kim DW et al., Brigatinib in patients with crizotinib-refractory anaplastic lymphoma kinase-positive non-small-cell lung cancer: a randomized, multicenter phase II trial. J Clin Oncol 2017; 35(22): 2490-8
  3. Schrock AB et al., Characterization of 298 patients with lung cancer harboring MET exon 14 skipping alterations. J Thorac Oncol 2016; 11(9): 1493-502 
  4. Paik PK et al., Response to MET inhibitors in patients with stage IV lung adenocarcinomas harboring MET mutations causing exon 14 skipping. Cancer Discovery 2015; 5(8): 842-9
  5. Felip E et al., Phase II data for the MET inhibitor tepotinib in patients with advanced NSCLC and METexon 14-skipping mutation. WCLC 2018, OA12.01
  6. Drilon A et al., Updated antitumor activity and safety of crizotinib in patients with MET exon 14-altered advanced non-small cell lung cancer. WCLC 2018, OA12.02
  7. Bergethon K et al., ROS1 rearrangements define a unique molecular class of lung cancers. J Clin Oncol 2012; 30(8): 863-70
  8. Dugay F et al., Clinicopathological characteristics of ROS1- and RET-rearranged NSCLC in caucasian patients: Data from a cohort of 713 non-squamous NSCLC lacking KRAS/EGFR/HER2/BRAF/PIK3CA/ALK alterations. Oncotarget 2017; 8(32): 53336-51
  9. Rolfo C et al., Entrectinib: a potent new TRK, ROS1, and ALK inhibitor. Expert Opin Investig Drugs 2015; 24(11): 1493-500
  10. Doebele RC et al., Efficacy and safety of entrectinib in locally advances or metastastic ROS1-positive non-small cell lung cancer (NSCLC). WCLC 2018, OA02.01
  11. Barlesi F et al., Routine molecular profiling of patients with advanced non-small-cell lung cancer: results of a 1-year nationwide programme of the French Cooperative Thoracic Intergroup (IFCT). Lancet 2016; 387(10026): 1415-26
  12. Mazières J et al., Vemurafenib in patients harboring V600 and non V600 BRAF mutations: final results of the NSCLC cohort from the AcSé trial. WCLC 2018, OA12.05
  13. Oxnard GR et al., Clinical activity of LOXO-292, a highly selective RET inhibitor, in patients with RET fusion+ non-small cell lung cancer. An update from ASCO 2018. WCLC 2018, OA12.07

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