患者の見解:生活の質の評価と肺がんに関わるスティグマ

肺がんによる負担

生活の質(QoL)評価は患者に大変重要視されていて、肺がん治療の評価に欠かせない要素ではあるが、日常の医療現場と治験のどちらでも、なおざりにされている[1]。「QoLの評価からはユニークというか他にはない情報を得ることができます」と、米国・ニューヨーク、アルバートアインシュタイン医科大学内科のRichard J. Gralla医師は語る。 

表1

1998年に腫瘍内科医154人に行ったアンケート調査からは、QoLに関するデータと患者報告アウトカム(PRO)は進行がん患者にとって大事だと思う、という回答が得られている[2]。しかし、ベースライン時にこれらのデータを必ず収集するまたは正式に高い頻度で収集すると回答したのはこのうちの50%弱で、45%弱の医師は患者のフォローアップか経過観察に用いると回答している。「今のやり方でいいという確証はまったくありません」とGralla医師は言う。また、患者の実際のQoLあるいは症状を評価する代わりに、症状を表す臨床検査所見のようなサロゲートマーカーに頼っている。悪化あるいは死亡までの期間のように、真のエンドポイントに関係し、主要評価項目が判明するまでにわかる可能性のある評価項目というのも考えられる。

QoLやPROの評価というのは基本的に、患者にとっての疾病負荷を数値化することを目的にしている。「疾病負荷はもとより、疾病負荷が予後にどう影響するのか、また治療が疾病負荷にどう影響するのかも十分に評価できていません」とGralla医師は指摘する。画像検査も、臨床検査も、分子遺伝学的検査も、患者が伝える情報の代わりにはなりえない。こういった検査と同様に、ECOGのパフォーマンスステータス(PS)も疾病負荷を完全に捉えられないし、PSはPROでもない。QoLの評価は治験デザインに入っていないこともままある。大規模試験では副次評価項目に入っていることもあるが、追跡調査時には医師が看過することがよくある。 

質問票:利用可能で有用なツール

肺がんに特化した検証済みのQoL評価ツールは現在3種類ある。肺がん症状尺度(LCSS)は患者用と医療従事者用があり、治験向けと患者管理向けに開発されている。一方、EORTC QLQ-C30、FACT-Lの両方は一般用モジュールと肺がん用モジュールがあり、一般使用を目的に開発されている。Gralla医師が述べたように、これらの質問票は安価で、患者の容認度も大変高く、簡単に実施できる。「携帯端末を利用すると、2分ほどで回答できます。」肺がん患者の場合、QoLもPROも3週間に1回は評価するべきだろう。 

予後に関する重要な情報はQoL評価ツールやPROで得られる。たとえば、LCSSの3-item global indexで得たベースライン時のPRO因子と生存率との相関性がデータから見て取れる
(表3)[3]。3-item global indexの項目は症状による苦痛、活動レベルへの悪影響、健康関連のQoLである。症状には個人差があるので、この3項目で評価する方が、信頼性が高い[4]。
予後グループが複数あっても同じ
PSのカテゴリーに納まってしまうことがあるので、PSにはこういった情報が十分に表れないと、Gralla 医師は指摘している。 

この点は、入院率のデータにも表れている。進行肺がん患者が入院にいたる理由は、肺がんとその合併症(73%)か、毒性(27%)のどちらかである[5]。前向き評価の対象になった進行NSCLC患者160人の3分の1が、最初の90日間に入院した。ベースライン時に得たLCSSの3-item global indexスコアから、がんに関連した入院を高い確率で予測できることがわかった(p=0.0001)。これとは別にECOG PS 1の患者コホートを解析したところ、同じ関係性がコホート内に認められたため、PSが正確に予測できるツールにならないことが示された。90日後の、3-item global indexにもとづいたこのコホート内の最高リスクと最低リスクの差は4:1だった
(最高リスク48%、最低リスク12%、
p=0.025、表2)。 

表2

表3

治療効果を早期に特定

胸部腫瘍の領域ではQoLとPROの評価には複数の役割がある、とGralla 医師は結論づけている。「現段階では、どちらも大規模臨床試験では副次評価項目として、そして日常の臨床では非公式な評価ツールとして扱われています。」しかし、QoLとPROの評価の役割が広がればリスクの高い患者の特定に用いられるようになって、そうすれば双方のニーズが高まり、入院率を低下させられるようになるかもしれない。治験開始前のベースラインの時点ではPSよりも予後を正確に予測できるので、試験デザインを改善させられるかもしれない。評価項目に適した実用的なQoLとPROの評価を数多く行うことが、絶対的な条件だ。

最後に伝えたいのは、この評価を行うことで、患者ごとにどの治療で効果が得られるかを早期に判断できる可能性があることだ。その場合、化学療法2コースを受けたNSCLC患者の3-item prognostic indexが20%低下すると、生存率に統計学的有意差が生じる(p=0.01)[6]。Gralla医師は「早い段階でPROとQoLを評価すれば、治験にとっても患者管理にとっても非常に貴重な情報をより多く知ることができるでしょう」と締めくくった。 

肺がん患者のスティグマが治療の全域に与える影響

健康関連のスティグマというのは今に始まったことではなく、肺がんでは大変よく見聞きすることだ。「肺がん患者の95%ほどが周囲の人たちから中傷を受けています」と米国・アリゾナ州、アリゾナ大学がんセンター、家庭・地域医療科、臨床心理科のHeidi A. Hamann博士は報告している[7]。
こういった中傷や負い目は、たとえば喫煙のような行為が肺がんの原因だという思い込みによるものが多く、抑うつや治療アドヒアランスの悪さ、症状をすべて伝えないといったような複数の負の心理社会的アウトカムや行動のアウトカムに関係している可能性がある。

スティグマは肺がん治療全体に関係していると、Hamann博士は指摘する[8]。「肺がん治療全体というのは予防から検出、診断、治療、サバイバーシップまでのことを指します。」スティグマと思われることがあれば、個々の患者からその家族、医療現場、果ては指針だけでなく経済的、政治的な基盤がある国レベルに至るまで、肺がん治療の様々な場面で対応する必要がある[9]。 

評価尺度のLCSI

Lung Cancer Stigma Inventory(LCSI)という肺がんにまつわるスティグマを調査する評価尺度が考案されており、肺がんのサバイバーへの聞き取り、質問項目の作成と微調整、複数の医療機関での実地調査の3段階で構成されている[10]。患者が報告するスティグマには、潜在化しているスティグマ、認識しているスティグマ、伝えることのためらいの3因子がある。
(表3)。LCSI評価尺度は、 NCI GEMデータベースからダウンロードできる。「この評価尺度のような別の心理検査に関しては、検査と再検査との間の高い相関性以外にも、完全に重なっているわけではありませんが、
Cataldo Lung Cancer Stigma Scaleとの高い収束的妥当性が認められています。」とHamann博士は説明する。潜在化しているスティグマについては喫煙未経験者よりも喫煙者経験者のスコアの方が高いことが報告されているが、認識しているスティグマに関しては両者に差異はない。また、スティグマの異なる要素と抑うつ評価尺度との間には正の相関性があり、スティグマのレベルが高いと抑うつのレベルも高くなっている。 

「患者が報告するスティグマには多面的な心理社会的影響があるので、肺がん治療の複数の段階に影響を及ぼす可能性があります」とHamann博士はまとめた。「対応することが大変重要になります。」スティグマが治療に及ぼす影響については、さらなる調査が必要だ。「治療法の決定、患者の治療アドヒアランス、治験の関与にスティグマがどう影響するのかを本当に理解するために、もっと多くのデータが必要なのです。」潜在化しているスティグマそして伝えることのためらいを中心に、患者レベルをはじめ様々な段階で肺がんにまつわるスティグマを評価するべきだ。

参考文献:

  1. Gralla RJ, Quality of life: are we paying enough attention? WCLC 2018, MS21.05
  2. Morris J et al., The use of quality of life data in clinical practice. Quality of Life Research 1998; 7(1): 85-91
  3. Gralla RJ et al., Prediction of survival outcomes in NSCLC using a new PRO index from the LCSS (Lung Cancer Symptom Scale): Results of a 622-patient prospective trial. J Clin Oncol 2013; 31 (15_suppl): 8087-8087
  4. Gralla RJ et al., An evidence-based determination of issues affecting quality of life and patient-reported outcomes in lung cancer: results of a survey of 660 patients. J Thorac Oncol. 2014; 9(9): 1243-1248
  5. Gralla RJ et al., Predicting risk of hospitalization in patients with NSCLC receiving chemotherapy using the LCSS 3-item global index (3-IGI). WCLC 2017, P2.01-050
  6. Gralla RJ et al., Can benefit or futility in treating advances NSCLC be determined early using the LCSS 3-item global index (3-IGI) PRO? WCLC 2018, P2.01-39
  7. Hamann HA, Identifying consequences of stigma on lung cancer care delivery and patient outcomes. WCLC 2018, MS11.01
  8. Campo RA et al., Cancer prevention after cancer: changing the paradigm–a report from the American Society of Preventive Oncology. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev 2011; 20(10): 2317-2324
  9. Taplin SH et al., A multilevel research perspective on cancer care delivery: the example of follow-up to an abnormal mammogram. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev 2012: 21: 1709-1715
  10. Hamann HA et al., in press

© 2018 Springer-Verlag GmbH, Impressum