EGFR阻害薬への現在の評価

アファチニブを評価する国際共同第Ⅲb相試験

第二世代の不可逆的ErbBファミリー阻害薬であるアファチニブが、EGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者へのファーストライン治療の標準薬になりうることが証明された。その根拠となったのは、LUX-Lung3および6の第Ⅲ相試験で見られた、プラチナダブレット療法に対する無増悪生存期間(PFS)と無増悪生存率(ORR)の顕著な改善である[1、2]。また、LUX-Lung7の第Ⅱb試験では、第一世代のEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)ゲフィチニブに比べて、アファチニブにPFS、ORR、アファチニブ、治療成功期間に有意な結果が見られた[3]。ヨーロッパ・イスラエル・オーストラリアで実施中の多施設共同非盲検試験の第Ⅲb相試験では、実臨床の環境で病勢が進行するまでアファチニブ40 mg/日を投与して評価をしている。個々の患者への忍容性を考慮して、30 mg/日または20 mg/日のどちらかに減量できるようになっている。また、症状のない脳転移患者も対象とした。 本会議で発表のあった中間解析結果の対象患者は合計で479人である[4]。脳転移のある患者が17%、まれなEGFR遺伝子変異(エクソン20挿入変異が最多)を検出した患者が18%、ECOGパフォーマンスステータスが1の患者が57%、同2の患者が8%という内訳になっている。78%の患者がアファチニブをファーストライン治療として投与され、18%がセカンドライン治療として投与された。つまり、この割合は実臨床の状況を反映していることになる。この中間解析では主要評価項目を安全性とし、有効性の評価項目をPFS、症状増悪までの期間(TTSP)、ORR、病勢コントロール率(DCR)とした。 全体的な成績は、LUX-Lung 3・6・7の各試験でのアファチニブの成績と一致している。アファチニブの安全性プロファイルは予想どおりでコントロール可能な内容だった。発現率が最高レベルだった有害事象(AE)は下痢と発疹で、 患者の54%に必要になった用量減量の主な原因となった。患者の8%がAEの発現により投与中止になったが、一番の原因は下痢だった。その他のAEが原因で投与中止になったのは1%未満だった。 また、PFSの中央値が13.37か月、TTSPの中央値が14.91か月と、有効性の評価項目に期待できる結果が見られた。脳転移のある患者のPFSは10.1か月、TTSPは13.7か月と、この患者群へのアファチニブの作用も確認できた(図1)。

図1:実臨床でのアファチニブ投与群のPFSとTTSPを治療ライン、パフォーマンスステータス、遺伝子変異の型、脳転移の有無別に表示 

図1:実臨床でのアファチニブ投与群のPFSとTTSPを治療ライン、パフォーマンスステータス、遺伝子変異の型、脳転移の有無別に表示

GIDEON試験:ドイツでの実臨床で得たエビデンス

前向き非介入試験のGIDEON試験では、ドイツの医療機関でアファチニブをファーストライン治療に日常的に使用して、有効性と忍容性を調べている。同試験では70歳以上の患者が高い割合を占めていたので、実臨床での高齢患者へのアファチニブ投与について調べる機会にもなった。主要評価項目を12か月時点のPFSとし、副次評価項目をPFS、全生存期間(OS)、ORR、DCRとした。全体で患者151人が治療を受け、そのうち67人(44%)が70歳以上だった。この67人のうちの22%に組み入れ時に脳転移があり、18%にまれな遺伝子変異があった。 同試験で初回の中間解析の対象となった高齢患者への成績に行った事後解析の結果を、Brücklらが報告している[5]。被験者全体の転帰に関する成績をも上回ったため、事後解析結果は高齢者へのアファチニブ投与を支持する内容になった。12か月時点のPFSは62%(被験者全体の同PFSは54.6%)になり、中央値は17.3か月(被験者全体の中央値は12.9か月)だった。ORRは78%、 DCRは93%である(被験者全体のORRは73%、DCRは90%)。 70歳以上の患者へのアファチニブの安全性プロファイルについては、70歳未満の患者群のそれと同等である。70歳以上の患者に投与後に発現したグレード3以上の治療関連AEも70歳未満の患者に発現したものと似通っており、発現率が最も高かったのは下痢だった。  初回投与量が40 mgだったのが、70歳以上の患者では62%であったのに対して70歳未満の患者では83%と、高齢患者で初回投与量を減量する傾向が見られた。ただし、減量が必要な患者の割合は70歳以上でも未満でもあまり変わりはなかった(70歳以上は55%、70歳未満は58%)。

ファーストライン治療にオシメルチニブを用いた場合の転帰

ファーストライン治療薬としての第三世代の不可逆的EGFR TKIのオシメルチニブを評価する、2つの用量拡大コホートを対象にしたAURA試験の第Ⅰ相試験では、局所進行性や転移性のEGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者のORRの上昇とPFSの延長が見られた[6]。 継続して試験に参加する30人の患者コホートには、疾患が増悪するまで1日に80 mgまたは160 mgを投与した。この拡大コホートから得た有効性と安全性の最 終データを、Yangらが本会議で報告した[7]。 80 mg投与群にはしっかりとした臨床活性とコントロール可能な忍容性が見られた。確認したORRは80 mg投与群が67%、160 mg投与群が87%だった。奏効期間の中央値は80 mg投与群が19.3か月、160 mg投与群が16.7か月、PFSの中央値は前者が22.1か月、後者が19.3か月となった。80 mg投与群に見られた安全性プロファイルは、これまでの報告とも一致している。用量減量が必要になるAEは全体の35%に発現し、80 mg投与群よりも160 mg投与群で多く発現した(160 mg投与群は53 %、80 mg投与群 17 %)。AEにより合計で12%の患者の投与を中止することになった。EGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者へのファーストライン治療にオシメルチニブが使用できることを、最終データが証明したと治験担当医師らは結論づけた。80 mgが至適投与量であることを確認したため、これを推奨投与量とした。

EGFR TKI療法失敗後の4剤併用療法の効果

EGFR TKIを用いたファーストライン治療が失敗に終わると、その患者には残された選択肢が限られるため、ここに対応を急がなければならないアンメットニーズがある。可能性として考えられるのは、化学療法に血管新生阻害薬と免疫療法を併用する方法だろう。3群間ランダム化比較試験のIMpower150試験では、抗PD-L1抗体薬のアテゾリズマブ、カルボプラチン/パクリタキセル、抗VEGF抗体薬のベバシズマブの併用(B群)を、アテゾリズマブ+化学療法の併用(A群)と化学療法+ベバシズマブの併用(C群)と比較して評価している。同試験は非扁平上皮NSCLCがⅣ期もしくは再発・転移している患者集団全体(all-comer)(n=1,202)を対象にしているが、C群に対してB群のPFSとOSの両方に統計学的に有意な効果が見られた[8、9]。 承認を受けている分子標的治療薬1剤以上の使用後に疾患が進行したあるいは忍容性の問題が生じた、EGFR遺伝子変異陽性患者も、この試験の対象になっている(n=124)。そのうち45人がA群の、34人がB群の、45人がC群の治療を受けた。本会議ではReckらが、EGFR遺伝子変異陽性患者に見られた有効性の評価項目に行った探索解析結果を発表している[10]。アテゾリズマブ・カルボプラチン・パクリタキセル・ベバシズマブの4剤併用療法が、EGFR遺伝子変異陽性患者群の転帰を改善したことを、この探索解析が示している。C群に比べてB群でPFSが延長しており(B群は10.2か月、C群は6.9か月)、OSにも同様な傾向が認められた(OSの中央値はB群で判明せず、C群は18.7か月)。アテゾリズマブをベバシズマブと化学療法に追加した療法により、EGFR遺伝子変異陽性患者のすべてのサブグループでPFSとOSの両方が延長した。また、ORR(B群は71%、A群は36%、C群は42%、図 2)そして奏効期間(B群は11.1か月、A群は5.6か月、C群は4.7か月)についても、B群の患者に最も大きな改善があった。それに対して、対照群のA群およびC群のPFSとOSには有意差がまったく見られなかった。 EGFR遺伝子変異陽性患者に見られた安全性プロファイルもITT解析集団のそれと同等で、免疫関連AEの発現に関しても同様だった。治療関連AEの発現に関しては、A群とC群よりもB群で若干多くなった。以上の結果に基づくと、 EGFR遺伝子変異陽性の肺がん患者へのEGFR TKI療法が不成功に終わっても、アテゾリズマブ・ベバシズマブ・プラチナ製剤ベースの化学療法の併用療法が、新たな治療の選択肢になる可能性がある。

図2:A群とC群に比べてベバシズマブ・化学療法にアテゾリズマブを追加したB群で奏効率および奏効期間が2倍になった

図2:A群とC群に比べてベバシズマブ・化学療法にアテゾリズマブを追加したB群で奏効率および奏効期間が2倍になった

耐性獲得の機序

NSCLC治療に関しては、PD-L1はT細胞の機能を抑制するだけでなく、EGFR TKIへの耐性を獲得することにも関係している。PD-L1がEGFR TKI療法への初回耐性の獲得にどういった役割を果たしているかについて、Zhangらが調査した[11]。in-vitro試験およびマウスのゼノグラフトモデルを利用した研究を基に、研究者らはゲフィチニブへの初回耐性に PD-L1が関わっていることを突き止めた。in vivoではPD-L1の過剰発現により、ゲフィチニブへの感度が弱まった。EGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者でのEGFR TKIへの初回耐性にはあらゆる面でPD-L1が関与している可能性があり、上皮間葉転換の発現が介在しているのかもしれない。PD-L1を標的にする免疫療法が、EGFR TKI療法への感度を元に戻して初回耐性を克服する戦略として期待できることを、このデータが示唆した。 アンロチニブは複数の複数の受容体標的型TKIの新薬であり、腫瘍の血管新生と成長の抑制効果を示している。EGFR TKIに耐性を示す進行NSCLC患者の一部は、アンロチニブ療法に反応する。Lianらは異なる種類の肺がん発症モデルとゼノグラフトモデルを用いて、この作用の発現機序を明らかにした[12]。FGFR1遺伝子は獲得耐性に関与しているが、アンロチニブはFGFRシグナル伝達経路を遮断することでがん細胞の増殖、アポトーシス、細胞周期を抑制することを発見している。以上のことから、薬剤耐性のあるEGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者にとって、FGFR1遺伝子は分子標的治療のターゲットになるかもしれない。

第三世代のTKIへの耐性

Fassunkeらは、第三世代のEGFR TKIに対する耐性獲得の機序について新しい知見を発表している[13]。第一世代や第二世代のEGFR TKIにT790M変異の耐性を獲得したため、第三世代のTKIの投与を受けた患者124人をサンプルとして、治療前後の状態を分析した。第三世代のTKIへの自然抵抗性や耐性獲得に関係している可能性のある別の遺伝子異常を、多くの患者から検出した。複数の遺伝子異常がサンプルの75%に見つかっている。最も多く発見したのはTP53遺伝子変異だが、第三世代のTKIへの影響はまったくなかった。 第三世代のEGFR TKIへの耐性を獲得したサンプルのEGFR遺伝子(T790M変異の喪失、C797S遺伝子変異など)とその他の遺伝子(MET遺伝子の増幅、KRAS遺伝子変異など)に変化が見られた。MET遺伝子の増幅と初回治療の失敗との間に強い相関性が見られたため、これが自然抵抗性の最大の要因と思われた。T790M変異の喪失およびMET遺伝子の増幅が、第三世代のTKI療法後に最も多く検出した遺伝子変異である。第三世代のTKI療法後のEGFR遺伝子耐性変異で新たに見つかったのが、G724Sである。G724Sにより耐性を獲得したとしても、第二世代のEGFR TKIを使用することで克服できる可能性があると、著者らは述べている。

参考文献:

  1. Sequist LV et al., Phase III study of afatinib or cisplatin plus pemetrexed in patients with metastatic lung adenocarcinoma with EGFR mutations. J Clin Oncol 2012; 31(27): 3327-3334
  2. Wu YL et al., Afatinib versus cisplatin plus gemcitabine for first-line treatment of Asian patients with advanced non-small-cell lung cancer harbouring EGFR mutations (LUX-Lung 6): an open-label, randomised phase 3 trial. Lancet Oncol 2014; 15(2): 213-222
  3. Park K et al., Afatinib versus gefitinib as first-line treatment of patients with EGFR mutation-positive non-small-cell lung cancer (LUX-Lung 7): a phase 2B, open-label, randomised controlled trial. Lancet Oncol 2016; 17(5): 577-589
  4. Passaro A et al., Afatinib in EGFR TKI-naïve patients with locally advanced/metastatic NSCLC harbouring EGFR mutations: an interim analysis of a phase IIIB trial. ELCC 2019, abstract 1150
  5. Brückl WM et al., Elderly patients treated with afatinib in clinical practice – results from the prospective non-interventional study GIDEON. ELCC 2019, abstract 125P
  6. Ramalingam SS et al., Osimertinib as first-line treatment of EGFR mutation-positive advanced non-small-cell lung cancer. J Clin Oncol 2018; 36(9): 841-849
  7. Yang JCH et al., Osimertinib as first-line (1L) treatment for epidermal growth factor receptor (EGFR) mutation-positive advanced non-small cell lung cancer (NSCLC): final efficacy and safety results from two phase I expansion cohorts. ELCC 2019, abstract 122P
  8. Reck M et al., Primary PFS and safety analyses of a randomised phase III study of carboplatin + paclitaxel ± bevacizumab, with or without atezolizumab in 1L non-squamous metastatic NSCLC (IMpower150). ESMO 2017, LBA1_PR
  9. https://www.roche.com/media/releases/med-cor-2018-03-26.htm
  10. Reck M et al., IMpower150: an exploratory analysis of efficacy outcomes in patients with EGFR mutations. ELCC 2019, abstract 1040
  11. Zhang Y et al., PD-L1 confers primary resistance to EGFR TKI in EGFR mutant non-small cell lung cancer via inducing EMT phenotype. ELCC 2019, abstract 138P
  12. Lian Z et al., Anlotinib can overcome acquired resistance to EGFR-TKIs via FGFR1 signaling in non-small cell lung cancer. ELCC 2019, abstract 129P
  13. Fassunke J et al., New insights into ­acquired resistance mechanisms to third-generation EGFR tyrosine kinase inhibitor therapy in lung cancer. ELCC 2019, abstract 132P

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