EGFR TKIと血管新生阻害薬を併用するフロントライン治療

EGFR遺伝子変異陽性肺がんの治療を受けていない患者には、第一世代のEGFR TKIに抗VEGF抗体のベバシズマブを追加することでPFSが延長し、毒性プロファイルも許容可能なレベルであることが示された[1、2]。第Ⅲ相多施設共同非盲検ランダム化比較ARTEMIS
(CTONG 1509)試験は、中国人のNSCLC
患者を対象にベバシズマブとエルロチニブの併用療法を調べた、初の第Ⅲ相試験である[3]。EGFR遺伝子変異陽性(エクソン19欠失変異またはエクソン21のL858R点突然変異)進行NSCLC患者311人が中国国内の医療機関14施設で、病勢が進行するまでベバシズマブの併用療法(n=157)あるいはエルロチニブ単独療法(n=154)を受けた。独立評価委員会(IRC)が判定したPFSを主要評価項目とした。

PFSの差は最大で10か月

ベバシズマブを追加したことで、PFSに統計学的有意かつ臨床的意義のある延長効果が確かに認められた(併用療法群は18.0か月、単独療法群は11.3か月、HR:0.55、p<0.001)。サブグループ解析結果を見ると、L858R点突然変異のある患者群とベースライン時に脳転移を認めた患者群に、併用療法によるPFSの延長効果が特に現れている。患者集団のほぼ半数を占めたL858R点突然変異陽性群では、IRCが判定したPFSの中央値は併用療法群が19.5か月、単独療法群が9.7か月となり(HR:0.51、)、エクソン19欠失変異陽性群のPFSを超えていた(前者は17.9か月、後者は12.5か月、HR:0.62)。奏効率は全体的に高く、治療群間で差異はなかった。IRCが判定したORRは前者が86.3%、後者が84.7%、病勢コントロール率は同じく95.9%、
96.5%となった。一方で、奏効期間は併用療法群の方が単独療法群より長くなっていた(IRCが判定した期間は前者が16.6か月、後者が11.1か月、HR:0.59)。併用療法群に現れた有害事象は許容できるもので、治療も可能だった。なお、安全性に警鐘を鳴らすような新たな所見はなかった。
同試験では、薬剤耐性変異を調べるため、腫瘍の組織検体を用いて次世代シーケンシングやトランスクリプトーム解析を行っている。病勢が進行した時点では、併用療法群の方が単独療法群よりも薬剤耐性に関わるT790M遺伝子変異の検出が少なかった(前者は33%、後者は42%)。少数ではあるが新たな遺伝子変異や遺伝子増幅が併用療法群にみられたため、今までとは異なる耐性獲得のメカニズムが働いていると考えられた。ベバシズマブとエルロチニブの併用療法は、EGFR遺伝子変異陽性進行NSCLCへの新しいファーストラインの標準治療になれるだろうと、著者らは締めくくった。

図:エクソン21のL858R点突然変異陽性患者にみられた、ベバシズマブ+エルロチニブ併用療法による無増悪生存期間の延長効果

:エクソン21のL858R点突然変異陽性患者にみられた、ベバシズマブ+エルロチニブ併用療法による無増悪生存期間の延長効果

RELAY試験で調べた耐性獲得のメカニズム

EGFR TKIと併用する血管新生阻害薬のもうひとつの候補として調べたのは、抗VEGFR2抗体のラムシルマブである。国際共同ランダム化プラセボ対照第Ⅲ相RELAY試験では、EGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者を、ラムシルマブとエルロチニブの併用療法群もしくはプラセボとエルロチニブの併用療法群にランダムに割り付けた。プラセボ群に比べてラムシルマブ併用群でPFSの中央値が統計学的有意に延長した(併用群は19.4か月、プラセボ群は12.4か月、HR:0.591、
p<0.0001)[4]。同試験の一環で、日本で行われたバイオマーカー研究では、T790M遺伝子変異が耐性獲得のメカニズムとしてどう発現し、この変異に臨床的有用性があるのかを調べた[5]。治療開始前、治療中、病勢進行後に採取した血漿中のctDNA量を基に、EGFR遺伝子変異発現の有無を判断した。 この判定対象になった患者は65人である。
このようにバイオマーカーを調べたところ、ラムシルマブ併用群のPFSが長くなっていたが、T790M遺伝子変異の発現率については両群間に差はなかった。病勢が進行するまでに受けたコース数別にT790M遺伝子変異の発現率を解析したところ、プラセボ群よりもラムシルマブ併用群で比較的低くなっていたが、統計学的有意差はなかった。以上のことから、ラムシルマブ併用療法にはT790M遺伝子変異による薬剤耐性の獲得を遅らせる効果があるだろう。どちらの群でもT790M遺伝子変異の発現はPFSに大きく影響していなかった。病勢の進行後に、ドロップレットデジタルPCRを用いて検出したT790M遺伝子変異の発現量も、ITT解析対象集団全体に次世代シーケンサーを用いて検出した発現量も一致したいたため、ラムシルマブとエルロチニブとの併用療法中に病勢が進行しても次のEGFR TKIに効果的につなげられる可能性を示した。

ベバシズマブとアファチニブの併用療法

ベバシズマブに第二世代のEGFR TKIのアファチニブを併用すればおそらく有効性が高まるという仮説に基づいて、岡山肺癌治療研究会が第I相試験のOLCSG1404で、EGFR遺伝子変異陽性進行NSCLC患者19人を対象に、フロントライン治療としてのアファチニブとベバシズマブの併用療法を評価した。評価が可能な患者16人のうち13人に奏効した病勢コントロール率をエビデンスとして、昨年報告している[6]本総会では二宮らが、副次評価項目の奏効率、PFS、OS、毒性について発表した[7]。
中央値にして27.4か月追跡調査した結果、PFSは24.2か月となったが、この時点ではOSの中央値の時期に達していなかった。EGFR遺伝子変異の種類ごとにPFSに差は生じなかったが(エクソン19欠失変異群は24.2か月、L858R点突然変異群は23.8か月)、ECOG PS 1群に比べてECOG PS 0群でPFSが統計学的有意に延長していた(PS 0群は判明せず、PS 1群は13.4か月、p=0.0192)。対象患者全体のORRは81.3%に上り、完全奏効の判定を受けたのは6.3%となった。
2年時点で治療を続けていたのは7人、病勢進行により投与中止になったのは5人、毒性により投与中止になったのは4人、患者自身の希望で投与を中止したのは3人だった。病勢が進行した時点で再検査を行ったところ2人からT790M遺伝子変異を検出し、オシメルチニブの投与を始めた。発現率の上位を占めた有害事象は、ざ瘡様発疹、下痢、爪囲炎、蛋白尿、高血圧だが、グレード4以上の有害事象は認められなかった。アファチニブ+ベバシズマブ併用療法とアファチニブ単独療法とを比較する、ランダム化比較試験は続行中である。

参考文献:

  1. Ichihara E et al., Phase II trial of gefitinib in combination with bevacizumab as first-line therapy for advanced non-small cell lung cancer with activating EGFR gene mutations: the Okayama Lung Cancer Study Group Trial 1001.J Thorac Oncol 2015; 10(3): 486-491
  2. Seto T et al., Erlotinib alone or with bevacizumab as first-line therapy in patients with advanced non-squamous non-small-cell lung cancer harbouring EGFR mutations (JO25567): an open-label, randomised, multicentre, phase 2 study.Lancet Oncol 2014; 15(11): 1236-1244
  3. Zhou Q et al., ARTEMIS (CTONG 1509): phase 3 study of bevacizumab with or without erlotinib in untreated Chinese patients with advanced EGFR-mutated NSCLC.WCLC 2019, abstract 1480O
  4. Nakagawa K et al., RELAY: A multinational, double-blind, randomized Phase 3 study of erlotinib in combination with ramucirumab or placebo in previously untreated patients with epidermal growth factor receptor mutation-positive metastatic non-small cell lung cancer.J Clin Oncol 37, 2019 (suppl; abstr 9000)
  5. Nishio K et al., Impact of ramucirumab + erlotinib on EGFR mutations in circulation tumor DNA – the 1st report of a biomarker study in Japanese patients from RELAY: global phase 3 study of erlotinib + ramucirumab or placebo in 1L metastatic NSCLC with EGFR activating mutations.ESMO 2019, abstract 1523P
  6. Ninomiya T et al., A phase I trial of afatinib and bevacizumab in chemo-naïve patients with advanced non-small-cell lung cancer harboring EGFR mutations: Okayama Lung Cancer Study Group Trial 1404.Lung Cancer 2018; 115: 103-108
  7. Ninomiya T et al., Updated analysis of a phase I trial of afatinib and bevacizumab in chemo-naïve patients with advanced non-small-cell lung cancer harboring EGFR mutations: OLCSG1404.ESMO 2019, abstract 1525P

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