放射線治療と免疫系の相互作用の探索

Maarten Lambrecht, MD, PhD, Department of Oncology, KU Leuven – University of Leuven, Belgium

Maarten Lambrecht, MD, PhD, Department of Oncology, KU Leuven – University of Leuven
(ベルギー)

患者が放射線治療にどう反応するかを決める分子経路の調節が、患者のアウトカムが改善するきっかけになるかもしれません。今後重要になるかもしれないこの分野の研究で、今のところどういったことが分かっていますか。
放射線生物学分野への関心や放射線治療と分子生物学の相互作用への関心はますます高まっていまして、ここ数年は電離放射線と免疫系の相互作用に注目が集まっています。放射線照射と免疫系との相乗効果を利用すれば治療反応性を改善させられることを、目にしています。また、放射線治療に伴うある特定の副作用への免疫系の影響にも関心が寄せられています。

免疫療法と放射線治療を互いにどう作用させられるとお考えですか。
放射線治療は局所療法ですが、それと免疫系が相互作用することは何十年も前から知られています。放射線治療を成功させるためには、免疫系が正常に機能していることが必要だと認識しています。非常に珍しい例では、腫瘍縮小効果が認められた場合、照射野の外側にアブスコパル効果と呼ばれる反応まで生じることがあるんですが、この効果を引き出すのは至難の業なのです。ですが、この効果の基本的な仕組みがここ数年で解明されつつあります。免疫原性細胞死、サイトカインの放出、抗原の発現量を増す主要組織適合性複合体クラスⅠ分子の上方制御を介して、免疫系に対して放射線治療が相互作用を示すことが分かっていますが、その一方で、制御性T細胞やPD-L1発現の上方制御によって、がん微小環境で免疫抑制を起こすこともあります。免疫チェックポイント阻害薬のような治療薬と電離放射線を組み合わせると、腫瘍での免疫抑制作用が弱まることが時折みられるので、この組みあわせは非常に期待できます。放射線治療をさまざまなタイプの免疫療法と併用すれば、がんのin-situワクチンのような感じで免疫系を賦活化させるのに利用できるでしょう。

腫瘍領域における侵襲性の低いイメージングバイオマーカーについて進展はありましたか。
これに関してこの何年間にあった大きな進展というと人工知能の導入でしょう。腫瘍縮小効果と毒性発現の両方を予測できる侵襲性の低いイメージングバイオマーカーの特定については、数多くの研究が行われていて、期待できるデータもかなり得られています。ただ、今のところ問題になっているのはそのデータを検証することで、そのためには相当な数のデータが必要になります。標準化したデータの回収方法を探して、臨床的な関連性の高いデータをすべて用いて特定のイメージングバイオマーカーを確定するのは、今後の問題になるでしょう。でも、こうやって努力したことは、患者のアウトカムの予測改善につながると信じています。

ESMO 2020で一番印象に残った演題を教えていただけますか。
私は胸部悪性腫瘍が専門の放射線腫瘍医ですので、印象に残った演題が3つありました。1つ目は、Ⅲ期の切除不能なNSCLC患者にデュルバルマブを地固め療法とすることの効果を評価した、PACIFIC試験の4年生存率に関する報告です[1]。探索的データ解析結果によると、デュルバルマブを追加した場合、4年生存率が50%近く上昇したわけですが、このタイプの患者では前代未聞の結果です。毒性が治療可能であることも踏まえると、アウトカムが不良になることが多いこのタイプの患者への朗報と言えます。放射線治療と免疫療法の相互作用が転移のない患者のOSに延長効果を示す場合の、参考になります。
2つ目はどちらかというと落胆した成績が出た報告で、限局型小細胞肺がん患者へのニボルマブとイピリムマブの地固め療法を評価した、第Ⅱ相のSTIMULI試験です[2]。PACIFIC試験と同様に、この試験では2種類の免疫チェックポイント阻害薬に放射線治療の併用という効果を期待できる併用療法を評価したのですが、PFSに延長効果がみられずに終わりました。免疫チェックポイント阻害薬がⅣ期の小細胞肺がんにある程度作用することが認められているのに、限局型の患者に同じ作用がみられなかったという所に、とてもがっかりしました。試験責任医師らが地固め療法群に認めたのは過度な毒性だけということですが、この群で実際に地固め療法を十分に受けた患者は非常に限られているので、大半の患者が十分に併用療法を受けられなかったわけです。
3つ目はLungART試験です。Ⅲ期の切除可能なNSCLC患者のN2症例に術後照射を追加しているので[3]、放射線腫瘍医にとっては重要な研究になります。患者を術後照射群と観察群のどちらかにランダム割り付けしていますが、標準治療に追加した術後照射が同群の生存期間などに、一切の延長効果をもたらさなかったことを見いだす結果になりました。

参考文献:

  1. Faivre-Finn C et al., Durvalumab after chemoradiotherapy in stage III NSCLC: 4-year survival update from the phase PACIFIC trial. ESMO 2020, LBA49
  2. Peters S et al., Consolidation nivolumab and ipilimumab vs observation in limited stage SCLC after chemo-radiotherapy – results from the randomized phase II ETOP/IFCT 4-12 STIMULI trial. ESMO 2020, LBA84
  3. Le Péchoux C et al., An international randomized trial comparing post-operative radiotherapy (PORT) to no PORT, in patients with completely resected NSCLC and mediastinal N2 involvement. ESMO 2020, LBA3_PR

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