悪性胸膜中皮腫:全治療ラインで行う免疫チェックポイント阻害薬をベースにした治療法

CheckMate 743試験の長期成績

第Ⅲ相ランダム化比較CheckMate 743試験では、切除不能な悪性胸膜中皮腫(MPM)患者に対する一次治療として、ニボルマブ3 mg/kgの隔週投与+イピリムマブ1 mg/kgの6週間間隔投与を最長で2年間続ける療法を、シスプラチンまたはカルボプラチン+ペメトレキセドの3週間間隔投与を6コース行う療法と比較して評価した。300人以上の患者を各群にランダムに割り付け、主要評価項目は全生存期間(OS)とした。免疫チェックポイント阻害薬2剤を併用する被験群で予想通りにOSが統計的有意に延長したことで、多くの国で切除不能なMPM患者への一次治療として承認を受けた。

同試験の3年後の最新成績をPetersらがESMO 2021で報告した[2]。臨床評価とは別に、炎症性4遺伝子シグネチャースコア、遺伝子変異量(TMB)、肺免疫予後指標(LIPI)を利用して、バイオマーカーの探索的データ解析も行っている。炎症性4遺伝子シグネチャースコアを構成する4遺伝子はCD8A、STAT1、 LAG3、CD274(PD-L1)で、RNAシーケンシングで腫瘍検体を解析し、LIPIは末梢血のLDH値と好中球・リンパ球比を基準にした。

3年後の最新成績によると、化学療法の対照群に比べてニボルマブ+イピリムマブの被験群でしっかりとした効果が続いていた。ランダム割り付けした全患者のOSは被験群で18.1か月、対照群群で14.1か月になり、リスク減少率に換算すると27%になり(HR:0.73)、それぞれ23%と15%の患者が3年後も生存していた。すべてのサブグループに化学療法よりも併用療法の効果が現れた。無増悪生存期間(PFS)に変わりはなかったものの(被験群は6.8か月、対照群は7.2か月、HR:0.92)、24か月後(同18%、同7%)と36か月後(同14%、同1%)の無増悪生存率に併用療法の効果がはっきりと現れた。奏効期間の中央値については、1年間の無治療期間後に解析を行ったにもかかわらず被験群に延びがみられた(11.6か月と6.7か月)。36か月でも被験群の奏効患者の28%でその状態が持続していた(対照群は0%)。

投与中止の影響なし

バイオマーカーの探索的データ解析からは、炎症性4遺伝子シグネチャースコアと被験群の生存期間・率の延長との相関性が示された。被験群のOSは同スコアの高い群が21.8か月、低い群が16.8か月(HR:0.57)になり、36か月後も生存していたのは前者の35%、後者の15%だった。一方、対照群では同スコアの高さ・低さでOSに差がつくことはなかった。また、LIPIもTMBもOSとの間に相関性は見られなかった。さらに12か月間追跡した後の安全性も過去に報告のあったものと内容が一致していた。治療関連AE(TRAE)の総発現率も変化はなかった。

TRAEにより投与を中止した被験群の患者に、両薬剤の投与をやめた影響がまったくなかったことが事後解析で判明した(図1)。投与中止以降も34%の患者で奏効状態が3年以上続いており、36か月後に生存していた患者が37%にのぼった。ニボルマブ+イピリムマブの併用療法は、組織型に関係なく切除不能なMPM患者への標準治療になりうることが、今回の最新成績で確認できたと著者らは強調した。

図1:CheckMate 743試験:被験群のニボルマブ+イピリムマブの一次治療後に投与を中止した患者と、対照群のランダム割り付けした全患者の全生存期間・率の比較

図1:CheckMate 743試験:被験群のニボルマブ+イピリムマブの一次治療後に投与を中止した患者と、対照群のランダム割り付けした全患者の全生存期間・率の比較

再発・抵抗性MPM患者へのペムブロリズマブ+ニンテダニブ併用療法

第I相PEMBIB試験では、切除不能なMPMで、プラチナ製剤ベースの化学療法の実施中に再発した患者や同化学療法に抵抗性のある患者を対象に、ペムブロリズマブとトリプルアンジオキナーゼ阻害薬のニンテダニブの併用療法を評価した。ペムブロリズマブ200 mgを3週間おきに投与する一方、ニンテダニブ150 mgを7日間にわたり1日に2回単独で先行投与し、血液検体および腫瘍検体には個別に補助的解析を行った。Danlosらが対象患者30人に関する成績をESMO 2021で報告した[3]。全身化学療法を1ライン受けたことのある患者が大部分を占め(77%)、2ライン受けた患者は17%、3ライン以上受けた患者は6.7%だった。

併用療法により12週間後の病勢コントロール率は68.4%にのぼり(図2)、PFSの中央値は6.2か月になった。AEは総体的に治療可能で、とりわけ発現率の高かったのは下痢、疲労、呼吸困難だった。サイトカイン測定によると、ペムブロリズマブとニンテダニブには同様な薬力学的作用がある。治療効果が現れやすい患者ほど腫瘍細胞にPD-L1や腫瘍浸潤CD8陽性T細胞が発現していることが多いため、ベースライン時に双方が認められれば、トリプルアンジオキナーゼ阻害薬や抗PD-1抗体薬の効果の予測因子なると思われた。また、IL-6濃度の高さと、治療への一次耐性だけでなく、体細胞コピー数変化(SCNA)の総スコアとの間にも相関性がみられた。発がん性遺伝子の変異の蓄積によるSCNAが、IL-6が介在する免疫抑制のほか、トリプルアンジオキナーゼ阻害薬や抗PD-1抗体薬への耐性獲得にもつながっていると著者らは結論づけた。

図2:前治療のプラチナ製剤ベースの化学療法実施中に再発した患者もしくは同化学療法に抵抗性のある患者におけるペムブロリズマブ+ニンテダニブ併用療法の治療効果判定

図2:前治療のプラチナ製剤ベースの化学療法実施中に再発した患者もしくは同化学療法に抵抗性のある患者におけるペムブロリズマブ+ニンテダニブ併用療法の治療効果判定

アテゾリズマブを用いるネオアジュバント療法

抗PD-L1抗体薬をネオアジュバント化学療法に追加し、次いで切除術とその後にアジュバント放射線療法を行えば生存期間・率が延長するかもしれないという仮説に基づいて行ったのが、S1619試験である[4]。化学療法を受けたことのない切除可能なMPM患者への治療として、アテゾリズマブ1,200 mgの3週間間隔投与をシスプラチン75 mg/m2とペメトレキセド500 mg/m2 の4コースに追加した。病勢進行が認められない場合には、手術に胸膜外肺全摘術(EPP)または胸膜切除剥皮術(P/D)を行い、その後、放射線治療やアテゾリズマブ1,200 mgを3週間おきに投与する維持療法を任意で1年間行った。主要評価項目は、この対象になっている24人の安全性、忍容性、この治療アプローチの実現可能性である。

適格基準を満たした28人のうち21人がネオアジュバント化学療法を完遂し、安定あるいは部分奏効の判定を受けた18人が手術に進み、そのうち17人にP/Dを、1人にEPPを行い、15人がアテゾリズマブの維持療法を受けた。解析時に治療を続けていたのは3人である。3剤併用療法にもアテゾリズマブの維持療法にも安全性の問題は浮上せず、グレード3を超える治療関連AEが間を置いて発現したという報告もなかった。その他の安全性に関する最新データの報告は次回以降の総会に持ち越した。

参考文献:

  1. Baas P et al., First-line nivolumab plus ipilimumab in unresectable malignant pleural mesothelioma (CheckMate 743): a multicentre, randomised, open-label, phase 3 trial. Lancet 2021; 397: 375-386
  2. Peters S et al., First-line nivolumab + ipilimumab versus chemotherapy in patients with unresectable malignant pleural mesothelioma: 3-year update from CheckMate 743. ESMO 2021, LBA65
  3. Danlos FX et al., Pembrolizumab and nintedanib for patients with advanced pleural mesothelioma. ESMO 2021, 1732M0
  4. Tsao A et al., S1619 A trial of neoadjuvant cisplatin-pemetrexed with atezolizumab in combination and maintenance for resectable pleural mesothelioma. WCLC 2021, OA13.01

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