小細胞肺がんへの延命効果
IMpower133試験:OSに関する最新データ
進展型小細胞肺がん(ES-SCLC)患者の予後の悪さを考えると、効果の高い第一選択薬が強く求められる。国際共同二重盲検プラセボ対照ランダム化比較IMpower133試験の第Ⅰ相試験と第Ⅲ相試験は、ES-SCLCに対して抗PD-L1抗体薬のアテゾリズマブとカルボプラチン+エトポシドの併用療法に、プラセボと化学療法の組み合わせを上回る延命効果があったことを示した初の臨床試験である[1]。OSの中央値は3剤併用群が12.3か月、プラセボ併用群が10.3か月(HR:0.70、p=0.007)となり、安全性プロファイルの内容も比較的良好だった。この成績を基に、アテゾリズマブとカルボプラチン+エトポシドの併用療法が、ES-SCLC患者へのファーストライン治療として承認を受けた。
同試験後さらに9か月間追跡調査(追跡期間の中央値は22.9か月)して得たOSに関する最新データを、Reckらが発表した[2]。ITT解析対象集団では、3剤併用群にOSの延長が引き続きみられた(中央値は3剤併用群が12.3か月、プラセボ併用群が10.3か月、HR:0.76、
p=0.0154)。18か月時点のランドマーク解析では、3剤併用群の延命率が13%になっていた(前者は34.0%、後者は21.0%)。
患者集団全体のなかの治療を受けたことのないES-SCLC患者には、アテゾリズマブ、カルボプラチン、エトポシドの3剤併用療法が新たな標準治療になりうることが、このデータでさらに裏付けられたと著者らは結論づけた。
CASPIAN試験、IMpower133試験の各データに行った追加解析
未治療のES-SCLC患者を対象にした第Ⅲ相国際共同非盲検ランダム化比較CASPIAN試験でも、ファーストライン治療としたエトポシドとプラチナ製剤ベースの化学療法(EP療法)併用群に比べて、同じくデュルバルマブ・エトポシド・プラチナ製剤ベースの化学療法(EP療法)の併用群に、統計学的に有意なOSの延長がみられた(OSの中央値はデュルバルマブ+EP療法併用群が13.0か月、EP療法単独群が10.3か月、HR:0.73、
p=0.0047)[3]。なお、新たな毒性は認められなかった。Paz-Aresらが、CASPIAN試験でみられた初回の進行のパターンと患者報告アウトカムを本総会で報告した[4]。初回の進行時に新たな病変が生じた患者の割合は、EP療法単独群に比べてデュルバルマブ+EP療法併用群で少なかったことが解析結果から見てとれた(併用群は41.4%、単独群は47.2%)。
しかし、新たに発現した脳病変・CNS病変に関しては両群に差異はなかった(前者は11.6%、後者は11.5%)有効性に関する成績と同様に、全症状が悪化するまでの期間、機能、健康関連のQoLといった患者報告アウトカムの全項目で、デュルバルマブ+EP療法併用群にEP療法単独群以上の結果がみられた。
IMpower133とCASPIANのどちらの試験も、バイオマーカーの発現を基準にして延命効果を判断している。PD-L1の免疫組織染色と血液中の遺伝子変異量の評価を行ったIMpower133試験の探索解析結果によると、バイオマーカーの発現状況を問わずアテゾリズマブ群にOSの延長効果がみられた[2]。ただ、PD-L1の評価に使用できるデータが限られていたので、ITT解析対象集団のうち評価対象になったのはわずか34%である。CASPIAN試験でもPD-L1の発現状況と臨床転帰との間に、統計学的に有意な相関性は認められなかった。同試験でPD-L1の発現状況の評価が可能だったのは患者の51.6%である。PD-L1が発現していた患者は少なく、腫瘍細胞での発現レベルが1%未満だったのは94.9%、免疫細胞でのそれは77.6%だった。バイオマーカーになりうるものとES-SCLC患者の臨床転帰との間の相関性を解析し、評価することがさらに必要だと、両試験の責任医師らは締めくくった。
サードライン治療以降に使用するアンロチニブ
多標的チロシンキナーゼ阻害薬のアンロチニブは、血管新生のシグナル伝達経路だけでなく腫瘍細胞の増殖を促し、SCLCでの発現量が多くみられる、さまざまなタイプの成長因子受容体を選択的に阻害することで効果を示す。第Ⅱ相多施設共同二重盲検ランダム化比較ALTER1202試験では、2つ以上の治療ラインで化学療法受けた後に病勢が進行した限局型SCLC患者やES-SCLC患者を対象にアンロチニブを評価した。以前に行った解析によると、プラセボ群に比べてアンロチニブ群でPFSが統計学的有意に延長している(アンロチニブ群は4.1か月、プラセボ群は0.7か月、HR:0.19、
p<0.0001)[5]。この時点では、OSに関するデータはまだそろっていなかった。
本総会で報告のあったOSに関する最新データからは、OSの中央値がアンロチニブ群で7.3か月、プラセボ群で4.9か月と、前者に統計学的に有意な延長がみられた(HR:0.53、p=0.0029、図)
[6]。6か月時点(前者は63.9%、後者は32.7%)と12か月時点(前者は30.6%、後者は13.1%)のアンロチニブ群の生存率はプラセボ群のそれを上回っていた。サブグループの大部分にはアンロチニブの効果が現れていた。脳転移を認める患者では死亡率が77%減少していた(OSの中央値は前者が6.3か月、後者は2.6か月、HR:0.23、p=0.0009)。このコホートの6か月時点の生存率は前者が55.7%、後者が0%だった。
同試験は、2つ以上の治療ラインがうまくいかなかった再発SCLC患者に延命効果をもたらした、初の二重盲検ランダム化比較試験である。2つ以上の治療ラインで化学療法を受けた後に病勢が進行したSCLC患者には、アンロチニブを新しい標準治療薬として検討すべきだと著者らは述べた。
図:ALTER1202試験:2つ以上の治療ラインで化学療法を受けた患者の全生存期間にみられた、プラセボを上回るアンロチニブの延長効果
参考文献:
- Horn L et al., First-line atezolizumab plus chemotherapy in extensive-stage small-cell lung cancer.N Engl J Med 2018; 379: 2220-2229
- Reck M et al., IMPOWER133: Updated overall survival analysis of first line atezolizumab + carboplatin + etoposide in extensive stage SCLC.ESMO 2019, abstract 1736O
- Paz Ares L, et al.Overall survival with durvalumab plus etoposide-platinum in first-line extensive-stage SCLC: results from the CASPIAN study.WCLC 2019, abstract PL02.11
- Garassino MC et al., PD-L1 expression, patterns of progression and patients reported outcomes with durvalumab plus platinum etoposide in ES SCLC: results from CASPIAN.ESMO 2019, abstract LBA89
- Cheng Y et al., Anlotinib as third-line or further-line treatment in relapsed SCLC: a multicenter, randomized, double-blind phase 2 trial.J Thorac Oncol 2018; 13(10): S351-S352
- Cheng Y et al., Overall survival update in ALTER 1202: anlotinib as third line or further line treatment in relapsed SCLC.ESMO 2019, abstract 1738O
More posts
まれなドライバー変異であっても重要性は高い
NRG1融合遺伝子変異が生じることは比較的少ないのですが、あらゆるタイプのがんで形質転換を起こさせるものです。すべてのタイプのがんで発生頻度は1%未満にすぎず、NRG1融合遺伝子の発生頻度は0.2%程度という報告もあります。非常にまれにしか発生しませんが、大変問題になるドライバー変異のひとつと言えます。
CNS病変の存在は治療成功の妨げにならない
転移性NSCLC患者の約35%に脳転移を認めており、これがさまざまな神経症状の原因になるだけではなく、予後不良の要因にもなっている。一方で、診断時に生じていた脳転移による神経症状が予後に及ぼす影響については、ほとんど知られていない。ウィーンで行われている脳転移に関する登録データで、新たにこの診断を受けた実際のNSCLC患者1,608人分のデータを解析し、この影響を評価した。
ALK、ROS1、NTRK、NRG1といったまれな遺伝子変異陽性肺がんへの画期的な検査法
分子標的治療には遺伝子検査が不可欠だが、組織の採取や組織診が臨床現場での足かせになっていることが知られている。だが、血液検体を用いた次世代シーケンス(NGS)解析で一部の難問を克服できるようになるかもしれない。進行NSCLC患者を対象に、血液バイオマーカーとファーストライン治療に用いる分子標的治療薬もしくは免疫チェックポイント阻害薬の臨床活性との相関性を前向きに評価するため、第Ⅱ相・第Ⅲ相国際共同マルチコホートBFAST試験を行った。
血管新生阻害薬と免疫チェックポイント阻害薬とのシナジー効果に関する調
主立ったドライバー変異のない進行非扁平上皮NSCLCにとっては、免疫チェックポイント阻害薬が登場したことで、これまでの標準治療が変わりつつあり、血管新生阻害薬との併用でシナジー効果も期待できる。血管内皮増殖因子(VEGF)は血管新生を促す以外に、免疫細胞の機能を変化させ、がん微小環境が免疫抑制を引き起こすことがみられている。
EGFR TKIと血管新生阻害薬を併用するフロントライン治療
EGFR遺伝子変異陽性肺がんの治療を受けていない患者には、第一世代のEGFR TKIに抗VEGF抗体のベバシズマブを追加することでPFSが延長し、毒性プロファイルも許容可能なレベルであることが示された[1、2]。第Ⅲ相多施設共同非盲検ランダム化比較ARTEMIS (CTONG 1509)試験は、中国人のNSCLC 患者を対象にベバシズマブとエルロチニブの併用療法を調べた、初の第Ⅲ相試験である。
EGFR遺伝子変異陽性肺がん:あらゆる治療ラインにわたる至適治療にかかわる問題点
EGFR遺伝子変異陽性進行NSCLC患者へのフロントライン治療には、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)を用いるのが一般的である。三世代のTKIが使用できるのでさまざまな選択肢があるが、どの順番で使用すればいいのか現段階では明らかになっていない。そこで、第Ⅲ相二重盲検ランダム化比較FLAURA試験で、第三世代のEGFR TKIのオシメルチニブを、第一世代のEGFR TKIのゲフィチニブとエルロチニブとフロントライン治療に用いて比較した。