巻頭言

Pilar Garrido, MD, PhD Head of the Thoracic Tumor Section, Medical Oncology Department, Hospital Universitario Ramón y Cajal, Madrid, Spain

Pilar Garrido, MD, PhD スペイン・マドリッド Hospital Universitario Ramón y Cajal 腫瘍内科・胸部腫瘍医長

臨床医の皆様へ 欧州肺癌学会議は、肺がんに治療に携わる、世界各国の専門医の注目を集める世界会議となっています。4月10日から13日までジュネーブで行われた本年度の会議には、75か国から参加したおよそ1600名の専門家を前に120名を超える発表者がこれまでに得た知見を発表しました。今回の総合プログラムには多岐にわたるセッションのほか、肺がん検診や非常に早期の肺がんから、各タイプの肺がんに対する現行の治療アプローチや今後の治療アプローチに至るまで、広い視野で捉えたこれらの知見を伝えるべくまとめた210のアブストラクトの発表がありました。がん患者の管理に異なる治療法が必要になり、複数の専門領域の協働が求められる場面では、集学的アプローチが必要です。本会議に胸部腫瘍のさまざまな学会がご協力くださったことに、この点が反映されているように思います。欧州臨床腫瘍学会(ESMO)および国際肺癌学会(IASLC)が、欧州放射線腫瘍学会(ESTRO)、欧州胸部外科学会(ESTS)、欧州胸部腫瘍学プラットフォーム(ETOP)と共同して本会議の開催に至りました。 本会議で発表のあった非小細胞肺がんと小細胞肺がんの双方に対する分子標的治療および免疫療法関連のアブストラクトを抜粋して、本号でお届けします。分子標的治療薬の新薬は効果の高い治療法として使えることもあり、その重要性が増してきています。また、術前化学療法に用いる場合であっても、まれなドライバー変異が見られる腫瘍の転帰が、既存の分子標的治療薬により臨床的意義のあるレベルに改善させることも示されています。ROS1遺伝子の再構成を認める肺がんに関する最新結果はこれまでにない生存率を示しており、別の種類のがんでも同様なことが認められることから、がんの長期経過に変化をもたらすきっかけになるのかもしれません。免疫チェックポイント阻害薬は、とりわけがん遺伝子中毒のないがんに有用であったことを、本会議で発表のあった抗PD-1抗体薬や抗PD-L1抗体薬に関する研究の、複数の分析結果が確認しています。 そのほかにも、肺がん検出率を高める可能性のある腫瘍マーカー、そして新たな治療法の登場により患者の予後を大きく変わり、肺がん治療の新時代の幕開けとなったこの時代に化学療法が担える役割について、著明な専門医お二人にお話を伺っています。

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「迅速な効果を求める場合には化学療法が必要」

肺がん患者さんへの治療法は分子標的治療薬や免疫療法といった新薬の登場で、ここ数年の間に大きく改善しています。しかし、いずれのデータを見てもすべての患者さんに効果を現しているわけではないので、化学療法がまだ必要になるのです。

進展型小細胞肺がん:免疫療法の効果のシグナル

小細胞肺がん(SCLC)患者の大部分は進展型の段階で(ED-SCLC)診断を受けている。通常はファーストライン治療のプラチナ製剤ベースの化学療法に良く反応するが、その効果はしっかりとしておらず、予後も良好とはいえない。NCCNガイドラインはセカンドライン以降の治療に、治験への参加、パフォーマンスステータスと無再発生存期間にもよるが全身療法、緩和療法を推奨している。

肺がん検診の精度を高める

一次予防ということではまず禁煙が目標ですが、患者さんが喫煙者や元喫煙者ということであれば、できる限り早期発見に努める必要があります。肺がんの早期発見に役立つということが現在分かっているのは低線量CTですが、この検査の特異度はもとより感度も改善させるために、分子バイオマーカーを加えることを目標にしています。

NTRK、ROS1、ALKの融合遺伝子陽性肺がんへの良好な成績が 判明

神経栄養因子チロシンキナーゼ受容体(NTRK)融合遺伝子は、乳児型線維肉腫のようなまれながんだけではなく、悪性黒色腫や大腸がん、肺がんといった一般的ながんも含め、多種多様ながんに発現している。肺がんでの発現率は0.2~3.3%と推測されている。

免疫療法:デュルバルマブおよびペムブロリズマブの作用が分析により明らかに

切除不能なⅢ期のNSCLC患者で、プラチナ製剤ベースの根治的放射線化学療法を受けた後に無増悪の状態が持続している患者にはデュルバルマブ療法を行うことが、国際共同第Ⅲ相ランダム化二重盲検プラセボ対照試験であるPACIFIC試験で確立した。放射線化学療法の実施から6週間以内に、患者をデュルバルマブ10 mg/kgを隔週(Q2W)で最長12か月間投与する群(n=476)もしくは、プラセボを投与する群(n=237)にランダムに割り付けた。

EGFR阻害薬への現在の評価

第二世代の不可逆的ErbBファミリー阻害薬であるアファチニブが、EGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者へのファーストライン治療の標準薬になりうることが証明された。その根拠となったのは、LUX-Lung3および6の第Ⅲ相試験で見られた、プラチナダブレット療法に対する無増悪生存期間(PFS)と無増悪生存率(ORR)の顕著な改善である。