巻頭言 – 臨床医の皆様へ
Michaël Duruisseaux, MD, PhD (フランス・リヨン), Hôpital Louis Pradel, Hospices Civiles de Lyon, Cancer Institute 呼吸器科
臨床医の皆様へ
肺がんは今でもあらゆる場面で困難をもたらしていますが、新規薬剤クラスに属する薬剤同士の有効な併用療法や発現頻度の高いドライバー変異を標的にした治療法など、重大な節目に達しているように思います。今年の9月27日から10月1日にかけてスペインのバルセロナで行われた欧州臨床腫瘍学会(ESMO)年次総会でも、免疫チェックポイント阻害薬がまたしても議題の中心になりました。免疫チェックポイント阻害薬の恩恵を受けられる患者の数は限られているものの、その臨床活性についてはかなり立証されてきています。この薬剤の開発が進めば、バイオマーカーに関する研究におのずと焦点が集まるようになります。遺伝子変異量といったPD-L1以外のバイオマーカーについての調査も行われていますが、結果は一定していません。
免疫チェックポイント阻害薬を細胞毒性化学療法などと併用すると臨床転帰が改善しますが、がん微小環境レベルでのシナジー効果という点で、血管新生阻害薬との組み合わせも良好な結果をもたらすようです。こういった知見を得たことで、とりわけドライバー変異が認められない患者にとっての新たな治療アルゴリズムを考案する動きが加速するでしょう。一方、EGFR遺伝子変異陽性肺がんには、血管新生阻害薬がEGFRチロシンキナーゼ阻害薬と併用する薬剤の候補になる可能性があります。両薬剤を併用するフロントライン治療に関する研究から、効果の点などで説得力のあるデータが得られています。さらに重要になるのが、EGFR遺伝子変異陽性肺がん患者に合った薬剤の切り替えの順番について、新しいエビデンスが得られたことです。第三世代のEGFR TKIがこのタイプの患者に適した第一選択薬として浮上しています。
また、ALK、ROS1、NTRK、RET、NRG1といったまれな融合遺伝子変異を同定して標的にする治療の研究も、重要性が増しています。 こういった遺伝子変異の発現頻度は低いのですが、通常の薬剤では臨床的意義があるほど効果がでない場合に、標的治療が非常に有効な手だてになりうるので、この分野を研究し続ける価値はあります。まれな遺伝子変異を検出した患者への、新薬と既存薬の臨床活性を評価する研究も進んでいます。
最後になりますが、小細胞肺がん患者の生存期間を延長させる治療法の研究も進んでいます。免疫チェックポイント阻害薬による延命効果はバイオマーカー発現の影響を受けない、という最近の解析結果を受けて、小細胞肺がん治療が新たな局面を迎えています。
こうした知見のすべてが治療法の改善につながり、患者がより良い状態で少しでも長く大切な時を過ごせるようになることを願うばかりです。
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まれなドライバー変異であっても重要性は高い
NRG1融合遺伝子変異が生じることは比較的少ないのですが、あらゆるタイプのがんで形質転換を起こさせるものです。すべてのタイプのがんで発生頻度は1%未満にすぎず、NRG1融合遺伝子の発生頻度は0.2%程度という報告もあります。非常にまれにしか発生しませんが、大変問題になるドライバー変異のひとつと言えます。
CNS病変の存在は治療成功の妨げにならない
転移性NSCLC患者の約35%に脳転移を認めており、これがさまざまな神経症状の原因になるだけではなく、予後不良の要因にもなっている。一方で、診断時に生じていた脳転移による神経症状が予後に及ぼす影響については、ほとんど知られていない。ウィーンで行われている脳転移に関する登録データで、新たにこの診断を受けた実際のNSCLC患者1,608人分のデータを解析し、この影響を評価した。
ALK、ROS1、NTRK、NRG1といったまれな遺伝子変異陽性肺がんへの画期的な検査法
分子標的治療には遺伝子検査が不可欠だが、組織の採取や組織診が臨床現場での足かせになっていることが知られている。だが、血液検体を用いた次世代シーケンス(NGS)解析で一部の難問を克服できるようになるかもしれない。進行NSCLC患者を対象に、血液バイオマーカーとファーストライン治療に用いる分子標的治療薬もしくは免疫チェックポイント阻害薬の臨床活性との相関性を前向きに評価するため、第Ⅱ相・第Ⅲ相国際共同マルチコホートBFAST試験を行った。
血管新生阻害薬と免疫チェックポイント阻害薬とのシナジー効果に関する調
主立ったドライバー変異のない進行非扁平上皮NSCLCにとっては、免疫チェックポイント阻害薬が登場したことで、これまでの標準治療が変わりつつあり、血管新生阻害薬との併用でシナジー効果も期待できる。血管内皮増殖因子(VEGF)は血管新生を促す以外に、免疫細胞の機能を変化させ、がん微小環境が免疫抑制を引き起こすことがみられている。
EGFR TKIと血管新生阻害薬を併用するフロントライン治療
EGFR遺伝子変異陽性肺がんの治療を受けていない患者には、第一世代のEGFR TKIに抗VEGF抗体のベバシズマブを追加することでPFSが延長し、毒性プロファイルも許容可能なレベルであることが示された[1、2]。第Ⅲ相多施設共同非盲検ランダム化比較ARTEMIS (CTONG 1509)試験は、中国人のNSCLC 患者を対象にベバシズマブとエルロチニブの併用療法を調べた、初の第Ⅲ相試験である。
EGFR遺伝子変異陽性肺がん:あらゆる治療ラインにわたる至適治療にかかわる問題点
EGFR遺伝子変異陽性進行NSCLC患者へのフロントライン治療には、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)を用いるのが一般的である。三世代のTKIが使用できるのでさまざまな選択肢があるが、どの順番で使用すればいいのか現段階では明らかになっていない。そこで、第Ⅲ相二重盲検ランダム化比較FLAURA試験で、第三世代のEGFR TKIのオシメルチニブを、第一世代のEGFR TKIのゲフィチニブとエルロチニブとフロントライン治療に用いて比較した。