巻頭言

Byoung Chul Cho, MD, PhD (© author’s own)

Byoung Chul Cho, MD, PhD 韓国・ソウル市 Yonsei Cancer Center Yonsei University College of Medicine 腫瘍内科

臨床医の皆様へ

2020年度ESMO年次総会は150を超す国から3万人以上の方々がご参加になり、70以上のセッションでの研究発表が実現しました。87本のLate breaking abstractsを含めて2,137本のアブストラクトの発表があり、セッションでは135の掲載前の論文発表、195の口頭発表、1807のeポスター発表がありました。複数のピアレビュー誌で12件の研究結果が同時に掲載されたことは、230人以上の招待講演者が参加者の皆様に伝えた解析の科学的意義を現しているのではないでしょうか。
私たち肺がん治療の専門家にとって今後の臨床の取り組みを一変させるきっかけになるような、さまざまな秀でたアブストラクトの発表が本総会でありました。初期の肺がんについてですが、LungART試験は、NSCLCを完全に切除したpN2症例への術後放射線治療が治療の一助にならないことを、前向きの調査で示した初めての試験です。初期のNSCLCや転移性NSCLCへの免疫療法の有効性がやはり抜きん出ていることは、PACIFIC試験やKEYNOTE-024試験といった長期試験の最新結果にも表れています。新しい免疫チェックポイント阻害薬も続々と登場していて、さまざまながんに有効性を示しています。PIONeeRプロジェクトはPD-(L)1阻害薬への耐性についての理解を深め、その予測精度を高めることを目的にしています。また、近年では、放射線治療と免疫療法との相互作用に研究の焦点が移ってきています。悪性中皮腫の治療ですが、免疫チェックポイント阻害薬の有効性を裏付けるエビデンスが今では数多く集まっています。
免疫療法についても注目に値する知見が得られつつあります。ALK阻害薬のなかでもロルラチニブは、ALK融合遺伝子陽性NSCLC患者へのファーストライン治療に用いた際に納得のいく有効性を示しました。KRASG12C遺伝子変異陽性肺がんに関しては画期的医薬品の研究が続いていて、期待を持てる結果が得られています。EGFR活性型遺伝子変異を検出した患者を対象にした、新規の併用療法の研究も進んでいます。初めのうちは大部分の患者に効果が現れてもそれが徐々に弱まることが避けられない状況で、よく見られる遺伝子変異がある場合に、有効性が確立している治療薬を併用することでさらに治療効果を高めて、耐性の獲得を遅らせたり防いだりするというのが、この研究の要点なのです。現在行われている併用療法には、EGFR阻害薬と血管新生阻害薬の組みあわせのほか、MET阻害薬とEGFR阻害薬の組みあわせなどがあります。標準治療を少し調整して用いれば、望ましい結果を得られることにもつながるでしょう。ここまでに申し上げたように、最近の治療法で重要な位置を占める忍容性も高まっていますが、それと共に胸部腫瘍の治療管理法も今後さらに進化を遂げるのだと思います。