胸部がん患者にみられるCOVID-19:TERAVOLT
国際共同研究であるTERAVOLTは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を発症した胸部悪性腫瘍患者が入院や死亡のリスクにさらされる要因を確認して、このような患者の臨床経過を明らかにし、生存に影響を与える可能性がある治療戦略を特定するために設立された。 COVID-19と診断された胸部がん患者、すなわちRT-PCR法により感染が確認された症例とCOVID-19が疑われる症例をデータベースに登録しているところである。 COVID-19感染の疑いは、臨床基準(COVID-19が確認された人への曝露が知られており、37.5℃を超える発熱、咳嗽、下痢などの症状がある)、またはコロナウイルス肺炎とその症状に一致する肺画像の特徴のいずれかによって判定される。
ASCO 2020で発表された解析では、 COVID-19と診断されてからの追跡期間が中央値で33日の患者400人の国際集団を対象とした[1]。データカットオフ時には、169人の患者が回復し、141人が死亡(35.5%)、118人に感染が持続していた。このような患者群全体の年齢の中央値は67歳から70歳であった。ほとんどの患者が男性であり、現在喫煙者または過去に喫煙歴があった。
化学療法が死亡率を上昇させる
来院時のCOVID-19の症状は、発熱、咳嗽、呼吸困難が主であった。入院を必要としたのは78.3%、ICUへの入室が必要となったのは8.3%であった。入院期間の中央値は10日であった。死亡した患者のうち、COVID-19が死因であったのは79.4%であったに対し、がんが死因であったのは10.6%にとどまった。最もよくみられた合併症は、間質性肺炎・肺炎(71.0%)、急性呼吸窮迫症候群(49.6%)、多臓器不全(14.9%)、敗血症(12.1%)であった。
COVID-19による死亡のベースラインのリスク因子には、年齢65歳以上、PS(全身状態)1、および併存疾患(高血圧、COPD、血管疾患など)などがあったが、性別、BMI(ボディマス指数)、喫煙状況、およびがんの病期または種類など他の因子は死亡のリスクに影響を与えなかった。COVID-19と診断される前にステロイド(プレドニゾン10mg超または同等)または抗凝固療法を受けていた場合、化学療法単独または免疫療法との併用と同じくリスクが増加したが、免疫療法およびTKI治療は生存率に悪影響を及ぼさなかった(図)。COVID-19に対する治療のうち、感染から回復する可能性の向上と関連している特定の治療はなかった。データ収集は現在進行中であり、追加解析も予定されている。
図:COVID-19から回復または死亡した患者、あるいは入院中の患者に対して過去3カ月間に投与された
がんの治療の種類
参考文献:
- Horn L et al., TERAVOLT: Thoracic cancERs international coVid 19 COLlaboraTion: impact of cancer therapy and COVID therapy on survival. J Clin Oncol 38: 2020 (suppl; abstr LBA111)
© 2019 Springer-Verlag GmbH, Impressum
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巻頭言
本年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の大流行によって、この世界最大のがん学会への現地参加は阻まれたものの、それぞれの専門領域の進展に対する専門家の強い関心に変化はありません。 去る5月29日金曜日から5月31日日曜日まで3日間にわたってインターネット経由で開催された米国臨床腫瘍学会(ASCO)バーチャル科学会議には、約4万人のがん治療の専門家が参加しました。