巻頭言

Alex A. Adjei, MD, PhD 米国・ロチェスター メイヨークリニック腫瘍内科・薬理学科教授 2021年度ESMO特別功労賞受賞者
臨床医の皆様へ
今年の9月8日から14日には世界肺癌学会が、同じく9月16日から21日にはESMO総会が開催の運びとなり、権威ある両会で、肺がん領域の前臨床試験および臨床試験で得た貴重な知見が新たにもたらされました。 ピボタル試験の最新成績そして新規治療法の優れた成績が大勢の参加者に向けて報告されたのですが、今回、ESMO総会だけでも143か国から22,700人以上の方が参加しています。
WCLCそしてESMOで発表のあった、肺がん患者さんの治療管理法に関する重要な知見の要旨を本号でご紹介します。ドラッガブルな標的分子の中でもEGFRファミリーやHER2ファミリーに属するものは、肺がんの発生に大きく関わっていますが、ポジオチニブやモボセルチニブ、アミバンタマブやトラスツズマブデルクステカンなどを調査した試験が多く行われたところに、これらの標的分子への関与の大きさが表れています。c-METやTROP2を標的にした抗体薬物複合体として、テリソツズマブベドチンとダトポタマブデルクステカンがそれぞれ開発されています。また、エルロチニブやアファチニブといった従来からのEGFR阻害薬の理想的な使用についてのデータも新たに得られています。
免疫チェックポイント阻害薬が、今なおがん治療の柱であることを忘れてはなりません。どの治療ラインでもその有効性と安全性が実証されていて、非小細胞肺がんだけでなく、小細胞肺がんや中皮腫など他のがんの治療にも用いられています。ニボルマブとイピリムマブの併用投与が、切除不能な悪性胸膜中皮腫の治療に新たな可能性を示しました。Ⅲ期のNSCLCに関しては、PACIFIC試験が切除不能な腫瘍に対して化学療法を行った後の新しい標準治療を見いだしています。デュルバルマブを用いた地固め療法が延命効果をもたらすことが実臨床で示され、他の治療薬との併用療法やこれ以外の免疫チェックポイント阻害薬も実臨床で評価を受けているところです。脳転移のある患者さんに免疫チェックポイント阻害薬が奏効しただけでなく、新たな転移を予防できる可能性も浮上しています。
この10年間、NSCLCに対する抗がんワクチンの効果は芳しくない状態が続いています。そのような中、免疫チェックポイント阻害薬による治療に失敗した後に、これまでとは違うタイプの抗がんワクチンOSE-2101のリスク・ベネフィット比が良好だったという、今後に期待できる結果が初めて出たことは特筆すべきです。数多くの研究者、医師、そして患者の皆様の惜しみない協力のおかげで、早期から進行期に至るまでどのステージの症例にも最大限の効果をもたらすというという目標を達成できるように、肺がん治療薬の幅が広がってきています。
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ATALANTE-1試験:がん免疫療法が不成功に終わった後の抗がんワクチン使用
OSE-2101は、HLA-A2+拘束性修飾ネオエピトープを利用した抗がんワクチンで、肺がんで発現率の高い腫瘍関連抗原のCEA、p53、HER2、MAGE-2、MAGE-3を標的にしている[1]。 HLA-A2は血清で測定するが、患者の半数ほどが陽性を示す。プラチナ製剤ベースの化学療法と免疫チェックポイント阻害薬の併用療法もしくは逐次療法が失敗した、HLA-A2陽性の進行NSCLC患者と同じく転移性NSCLC患者を対象に、第Ⅲ相ランダム化比較ATALANTE-1試験でOSE-2101を評価した。
徐々に進展する中皮腫および胸腺腫の 治療管理法
切除できない悪性胸膜中皮腫への画期的な治療法の中では、どれが一番期待できるとお考えですか。 大変重要性の高い分野ですが、これまでに大きな進展は見られていません。そんな中、ランダム化比較試験のCheckMate-743試験でニボルマブとイピリムマブの併用療法を化学療法 と比較した最新成績を、Peters教授らがESMO 2021で発表しています。
悪性胸膜中皮腫:全治療ラインで行う免疫チェックポイント阻害薬をベースにした治療法
第Ⅲ相ランダム化比較CheckMate 743試験では、切除不能な悪性胸膜中皮腫(MPM)患者に対する一次治療として、ニボルマブ3 mg/kgの隔週投与+イピリムマブ1 mg/kgの6週間間隔投与を最長で2年間続ける療法を、シスプラチンまたはカルボプラチン+ペメトレキセドの3週間間隔投与を6コース行う療法と比較して評価した。
小細胞肺がん:有効性と忍容性改善への道のり
プラチナ製剤ベースの化学療法の実施中やその後に病勢が進行した小細胞肺がん(SCLC)患者には、発がん性転写因子を選択的に阻害するルルビネクテジン3.2 mg/m2の3週間おきの投与が米国で承認を受けている。 そこで、化学療法を1ライン受けた後に再発したSCLC患者307人を対象に、ルルビネクテジン 2 mg/m2とドキソルビシン40 mg/m2を3週間間隔で最大10コース併用投与し、次いでルルビネクテジン3.2 mg/m2を3週間間隔で単独投与した場合の有効性と安全性を第Ⅲ相ランダム化比較ATLANTIS試験で調査した。
免疫チェックポイント阻害療法:効果の増大および耐性の克服
第Ⅲ相国際共同オープンラベルランダム化比較POSEIDON試験では転移性NSCLC患者を対象に、一次治療としての抗PD-1抗体薬のデュルバルマブと化学療法の併用療法と、同併用療法に抗CTLA-4抗体のトレメリムマブを追加する併用療法を比較評価している。 19か国の153施設で、IV期の扁平上皮NSCLC患者と非扁平上皮NSCLC患者の1,013人を3群にランダムに割り付けた。
多岐にわたる遺伝子変異をターゲットにする新規治療薬や既存の治療薬
HER2変異は非扁平上皮NSCLCに顕著なドライバー遺伝子変異のおよそ3%を占める。 NSCLCを適応症に承認を受けたHER2阻害薬はいまだ限ら れているものの、抗HER2抗体薬物複合体のトラスツズマブデルクステカン(T-DXd)が別のがん種のHER2遺伝子変異陽性例に適応する薬剤として、複数の国で承認されている。