悪性中皮腫: 免疫療法をベースにした標準治療の実施

Paul Baas, MD, PhD, Department of Thoracic Oncology, Netherlands Cancer Institute, Amsterdam, Netherlands

Paul Baas, MD, PhD, Department of Thoracic Oncology, Netherlands Cancer Institute(オランダ・アムステルダム)

現行の標準治療を受ける、ヨーロッパの悪性中皮腫患者の転帰はどうなると予測していますか。
プラチナ製剤とペメトレキセドを併用する標準の化学療法を4~6コース行うと、全生存期間の中央値はだいたい15か月か16か月になると予測しています。ここ15年、この予測はほとんど変わっていませんね。患者に適した治療法を選べるようになったこともあって、2004年にこの組み合わせの化学療法を始めてから少しはいい結果がでるようになりましたが、それでも生存期間の延長効果を高めることが急務です。

免疫チェックポイント阻害薬を中皮腫のファーストライン療法にすることですが、現状ではどうなっていますか。
免疫チェックポイント阻害薬と化学療法の併用療法に関する調査は始まったばかりなので、これからエビデンスを積み重ねていくところです。ファーストラインでの使用の場合、第Ⅲ相試験で切除不能な中皮腫患者への免疫チェックポイント阻害薬投与に初めて良い成績が出たのはCheckMate 743試験です。2020年8月に行われたWCLCのプレジデンシャル・シンポジウムで発表のあったデータでは、標準の化学療法よりもニボルマブとイピリムマブの併用療法に患者集団全体の全生存期間の延長効果が見られています[1]。ニボルマブとイピリムマブの併用療法群のOSの中央値は18.1か月であるのに対して、シスプラチンまたはカルボプラチンとペメトレキセドの併用療法群ではこれが14.1か月になっていまして、これを死亡リスクに換算すると26%低下したことになります。2年後に生存していたのは前者が41%で、後者は21%でした。免疫チェックポイント阻害薬をベースにした併用療法の有効性が化学療法のそれを実際に上回った、初めてのエビデンスです。デュルバルマブと化学療法を比較する第Ⅱ相試験では期待できる成績が出てきているので、悪性中皮腫患者に免疫チェックポイント阻害薬をファーストライン療法にする価値が増すことになるでしょう
[2、3]。

セカンドライン以降の免疫チェックポイント阻害薬についてはいかがですか。
ファーストラインで化学療法を行ったのなら、免疫チェックポイント阻害薬を単独投与するか併用投与の一つにする可能性が考えられます。ニボルマブ単独療法に中皮腫患者への臨床的有用性があることは示されており、MERIT試験の成績をもとに2018年に日本でセカンドライン使用の承認を得ています[4]。これは、免疫チェックポイント阻害薬をセカンドライン以降の治療ラインで使うことを初めて承認したケースです。
ファーストラインで免疫チェックポイント阻害薬、とりわけニボルマブとイピリムマブの併用療法を行った場合、何をセカンドラインで使用するかは患者の容体とファーストライン療法の奏効期間、そして参加できる臨床試験の有無で変わってきます。ファーストラインで免疫チェックポイント阻害薬の併用療法を行ったのなら、セカンドラインはできれば臨床試験に組み入れるべきだと、今のところそう考えています。

現在、どういった療法を臨床試験で評価していますか。
免疫チェックポイント阻害薬と化学療法の併用をファーストライン療法として、いくつかの第Ⅲ相試験で評価が進んでいるところです。少なくとも3試験の成績が4年以内に出そろうでしょう。ペムブロリズマブをシスプラチンとペメトレキセドと併用する試験(NCT02784171)のほか、デュルバルマブとこの化学療法を併用する試験も行われていまして、アテゾリズマブをカルボプラチン、ベバシズマブ、ペメトレキセドと併用する試験(NCT03762018)も行われています。中皮腫のメカニズムを分子レベルで解明しなくてはなりませんが、今後のトランスレーショナルリサーチによって解明されていない部分が明らかになっていくと思います。

中皮腫への他の免疫療法に進展はありますか。
この5、6年の間に中皮腫に関する研究が数多く行われています。当初は免疫療法に注目が集まっていましたがもちろん免疫チェックポイント阻害薬だけではなく、CAR-T細胞療法やメソテリン抗体をペイロード(トリチウムやキラーT細胞)に結合させた抗体薬物複合体にも注目しています。がんワクチンの開発も進んでいて、ヨーロッパで実施しているDENIM試験の第Ⅱ相と第Ⅲ相ランダム化比較試験がその例です[5]。ファーストライン療法の実施中に進行しなかった患者から採取した未成熟樹状細胞を利用します。悪性中皮腫の細胞株のエピトープに同樹状細胞を導入したものを、免疫応答の誘導を期待して患者に戻します。同試験では、この樹状細胞ワクチン療法とベストサポーティブケアを比較評価しています。
病状の悪化を食い止めることが困難な患者の転帰を改善させるため、長年にわたって努力が重ねられています。CheckMate 743試験に今後みられるだろうと思っている特徴の一つが、生存曲線のテールプラトーの出現です。 テールプラトーになれば、悪性黒色腫や一部のNSCLCの患者にみられるように、特定の患者への長期間の治療がうまくいっているということになります。簡単なこととは言えませんが、この特定の患者を見つけ出さないといけません。中皮腫を完治させることは不可能かもしれませんが、臨床的アウトカムが大きく改善した慢性疾患にすることならできるかもしれません。

参考文献:

  1. Baas P et al., First-line nivolumab + ipilimumab vs chemotherapy in unresectable malignant pleural mesothelioma: CheckMate 743. WCLC Presidential Session 2020, abstract 3
  2. Nowak A et al., DREAM – a phase 2 trial of durvalumab with first line chemotherapy in mesothelioma: final results. WCLC 2018, OA.08.02
  3. Forde PM et al., PrE0505: Phase II multicenter study of anti-PD-L1, durvalumab, in combination with cisplatin and pemetrexed for the first-line treatment of unresectable malignant pleural mesothelioma (MPM) – A PrECOG LLC study. J Clin Oncol 38: 2020 (suppl; abstr 9003)
  4. Okada M et al., Clinical efficacy and safety of nivolumab: Results of a multicenter, open-label, single-arm, Japanese phase II study in malignant pleural mesothelioma (MERIT). Clin Cancer Res 2019; 25(18): 5485-5492
  5. Belderbos RA et al., A multicenter, randomized, phase II/III study of dendritic cells loaded with allogeneic tumor cell lysate (MesoPher) in subjects with mesothelioma as maintenance therapy after chemotherapy: DENdritic cell Immunotherapy for Mesothelioma (DENIM) trial. Transl Lung Cancer Res 2019; 8(3): 280-285

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