小細胞肺がんに関する最新知見
ルルビネクテジンとイリノテカンの併用療法
小細胞肺がん(SCLC)は転写因子に依存する悪性腫瘍であることがわかっているので、新規治療法はトランス活性化転写因子の阻害薬で構成している[1]。そこで、Rudinらは、主な4種類の転写制御因子の差次的発現ごとにSCLCを4通りのサブタイプに分類した[2]。 発がん性転写因子を選択的に阻害し、がん微小環境を調節することで作用するルルビネクテジンは、第Ⅱ相試験成績に基づいて、プラチナ製剤ベースの化学療法の最中やその後に病勢が進行した転移性SCLC患者への治療薬として、FDAより2020年6月に迅速承認を受けた[3]。
前臨床試験での観察でルルビネクテジンとイリノテカンの相乗作用が示唆されたため、多岐にわたるがん腫の患者を対象に用量を漸増する治療レジメンを第ⅠB相・第Ⅱ相試験で評価した。初日にルルビネクテジン2 mg/m2とイリノテカン75 mg/m2を投与し、8日目は同じ用量のイリノテカンだけを投与した患者21人から成るコホートAの成績を、Ponceらが発表した[4]。なお、このコホートにはG-CSF製剤を予防投与に用いている。21人のうちの81%は進展型SCLCで、巨大病変が29%に、CNS転移が24%に認められた。38%が進行がんの治療で2ラインの治療を受けており、71%が前に受けたプラチナ製剤ベースの化学療法により完全奏効または部分奏効の判定を受けたものの、19%がプラチナ製剤に抵抗性を示した。
予後不良因子のある患者ほど顕著な効果が現れる
ルルビネクテジンとイリノテカンの併用療法は顕著な抗腫瘍作用を示し、部分寛解の判定を受けた患者は62%にのぼり、病勢コントロール率は90%になった(表)。PFSの中央値は6.2か月、奏効期間の中央値は6.7か月だった。治療抵抗性がある、化学療法完全休薬期間が短い、サードライン治療を受けるといった、予後不良因子のある患者に特に顕著な効果がみられ(表)、脳転移を認める患者でも同様だった。
AEもみられたが一過性で治療可能なものだった。大半がグレード1か2のAEだったが、グレード3または4の好中球減少症が61.9%に発現し、G-CSF製剤を予防投与していたにもかかわらずグレード3または4の発熱性好中球減少症が9.5%に発現した。血液関連AEを除くと、下痢(全グレードは33.3%、グレード3と4は28.6%)のほか疲労(全グレードは66.7%、グレード3と4は28.8%)の発現率が高くなっている。AEが原因で投与中止になった患者もおらず治療関連死もなかったが、52.4%に減量が必要になった。以上の知見を考慮して、SCLC患者へのルルビネクテジン+イリノテカン併用療法の安全性と有効性をさらに評価する必要があると、著者らは語った。同試験のSCLCコホートは現時点で47人まで拡大している。
IMpower133試験:患者が維持期に到達
第Ⅰ相・第Ⅲ相IMpower133試験では、アテゾリズマブ+カルボプラチン・エトポシド(CP/ET)を併用する療法後にアテゾリズマブの維持療法を受けた群のOSとPFSが、プラセボ+CP・ET併用療法後にプラセボの維持療法を受けた群のそれに比べて、統計学的有意に改善した[5]。本学会で報告のあった探索的データ解析結果は、同試験で維持期に達 した患者へのアテゾリズマブの有効性をプラセボと比較して評価したもので ある[6]。
化学療法を何コース受けているかを問わず、最低でも維持療法を1回受けた患者を解析対象としたが、両群でほぼ同じ割合の患者がこの基準を満たしている(アテゾリズマブ群:n=154、77%、プラセボ群:n=164、81%)。ベースライン時の両群の患者背景はどちらの群でもほぼ共通していた。一般化線形モデルを使用して、維持期に到達する可能性を予測する因子(または予後予測因子)を特定し、リードタイムバイアスにつながる原因を知るため、維持療法の開始時点から多変量COX回帰分析を行って治療がもたらすOSとPFSへの影響も評価している。
維持期に達する可能性の予測因子として特定した3種類は年齢の低さ(OR:0.459)、良好なECOG PS(OR: 0.439)、LDH値の低さ(OR:0.589)だった。また、年齢が低いと統計学的有意性のある薬剤の相乗作用があることも示された(p=0.004)。死亡リスクはプラセボ群に比べてアテゾリズマブ群で41%低下しており(HR:0.59)、維持療法開始を起点にしたOSの中央値はアテゾリズマブ群で12.5か月、プラセボ群で8.4か月になり、ランダム割り付けを起点にしたOSの中央値の場合、前者は15.7か月、後者は11.3か月になった。PFSの中央値についてもOSと同様で、維持療法開始以降(前者は2.6か月、後者は1.8か月)でもランダム割り付け以降(前者は5.5か月、後者は4.5か月)でもアテゾリズマブ群に延長効果がみられ、リスク減少率は36%になった(HR:0.64)。維持期にアテゾリズマブを単独で投与し続けたにもかかわらず、どちらの群でもAEに大きな差異は認められていない。著者らは、アテゾリズマブ+カルボプラチン・エトポシド(CP/ET)の導入療法、アテゾリズマブの維持療法の両方がIMpower133試験ではOSの延長に寄与したようだと結論の中で述べた。
参考文献:
- Christensen CL et al., Targeting transcriptional addictions in small cell lung cancer with a covalent CDK7 inhibitor. Cancer Cell 2014; 26(6): 909-922
- Rudin CM et al., Molecular subtypes of small cell lung cancer: a synthesis of human and mouse model data. Nat Rev Cancer 2019; 19: 289-297
- Trigo J et al., Lurbinectedin as second-line treatment for patients with small-cell lung cancer: a single-arm, open-label, phase 2 basket trial. Lancet Oncol 2020; 21(5): 645-654
- Ponce S et al., Efficacy and safety profile of lurbinectedin-irinotecan in patients with relapsed SCLC. WCLC 2020, OA11.04
- Horn L et al., First-line atezolizumab plus chemotherapy in extensive-stage small-cell lung cancer. N Engl J Med 2018; 379(23): 2220-2229
- Reck M et al., IMpower133: exploratory analysis of maintenance therapy in patients with extensive-stage small cell lung cancer. WCLC 2020, OA11.06
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KRAS・HER2・ALKの各遺伝子の阻害薬と使用する治療ラインの問題点
KRAS p.G12C変異は肺がん患者の約13%に生じるがん関連の主要な遺伝子変異で、転帰不良の一因にもなっている。極めて選択性が高いKRASG12Cの画期的な不可逆的阻害薬であるソトラシブが、第Ⅰ相CodeBreaK 100試験に参加した、前治療歴の多いNSCLC患者コホート59人にしっかりとした臨床的有用性を示した。 本学会では、申請のもとになる第Ⅱ相オープンラベル単群試験の対象になったNSCLC患者コホートに関する成績をLiらが発表した 。
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巻頭言
2020年度世界肺癌学会(WCLC)は当初、昨年の8月にシンガポールで開催する予定でしたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界中に蔓延したため今年1月に延期となり、同月28日から31日にかけて何とかバーチャル会議を開催することができました。肺がんをはじめ胸部悪性腫瘍領域の科学者・研究者・患者支援団体が一堂に会する、世界有数の会議であるWCLCは今回も参加者同士を結びつけ、研究や治療法についての最新の知識や知見を互いに分かち合って学ぶ、絶好の場になりました。