序文
ブルース・ジョンソン(MD 米国臨床腫瘍学会(ASCO)会長 Chief Clinical Research Officer, Dana-Farber Cancer Institute, Boston, MA, USA ASCO Translational Research Professor
各位
医師、研究者として、がんの研究と治療にプレシジョン・メディシンがもたらす劇的な革新にか関与できることを幸運に思っています。プレシジョン・メディシンの成功は、一晩の成功のようにみえるかもしれませんが、実際には、世界各地の専門研究者による何十年もの熱心な仕事に基づく、深く考えられた戦略的アプローチです。肺がん分野では、標的療法や免疫療法で効果的に治療できる発がん遺伝子の同定につながり、過去10〜15年間、免疫療法は多くの患者の治療に中心的な役割を果たしています。
このような努力の積み重ねの結果、治療が変わりました。今日、進行性肺がんを呈する全患者のほぼ半分は、化学療法ではなく、経口分子標的薬または免疫療法による初回治療を受けることができます。実際に、肺がん患者一部はチェックポイント阻害薬によって治癒すると私は前向きにみています。患者数の多い進行した固形腫瘍に対して根治が可能な治療薬を開発することは、オンコロジー領域に望まれた夢のような目標でした。それが今、少なくとも一部の患者にとっては、目の前の現実になろうとしています。
2018年米国臨床腫瘍学会(ASCO)で発表された肺がん治療の分野における成果を要約した本号では、免疫療法アプローチにかなりの重点を置いています。併用療法は現在、小細胞肺がんにもあてはまりますが、治療効果の向上のために大規模に研究されています。もう1つ重要な研究分野に、免疫療法による治療成功の決定要因があります。とはいえ、分子標的治療は未だ重要な役割を演じており、それは学会で提示された厖大なデータにも反映されています。その結果の一部は、本号のEGFRおよびALK治療に関する記事にて概説されています。
一方、プレシジョン・メディシンの範囲を広げるためには、依然として継続的な努力が必要です。プレシジョン・メディシンは、延命だけでなくQOLを含めた患者さんの生活の向上を目指しています。研究者として、私たちは絶えず奏効率と生存曲線に晒されていますが、究極の課題は延長された患者さんの余生に薬剤が負担にならないようにすることです。がん研究とがん治療に重要なこの時期に、患者の腫瘍の特徴を詳しく調べ、最も効果的な薬剤で治療し、薬剤の有効性向上のために安定した研究基盤を支援する必要があります。
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非浸潤がん検出を可能にする血漿セルフリーDNAの包括的なシーケンシング
肺がんの早期発見は、未だ医学において解決されていない。低線量コンピュータ断層撮影法(LDCT)は、高リスクを抱えている個人の肺がん死亡率を改善すると示されているが、臨床的採用率は1.9%と低いままだ。ASCO学会で発表された循環無細胞ゲノムアトラス(CCGA)研究の初期報告によると、無細胞DNA(cfDNA)試験はスクリーニングツールとしてLDCTを代替する可能性がある。
小細胞がんの治療に関する最新ベンチマーク
進展型小細胞肺がん(ED-SCLC)は一次治療によく反応するが、早期再発も多く起こり、予後は不良である。今日まで、バイオマーカー駆動療法は確立されていない。 SCLCの病態生理学における免疫システムの関与およびこの疾患の高い変異負荷に基づいて、免疫療法は、新規治療としての可能性を秘めている。高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-H)を有するがんを含む10タイプの腫瘍で実施された第II相バスケット試験KEYNOTE-158は、バイオマーカーの状態にかかわらず進展型小細胞肺がんにおける抗PD1抗体ペムブロリズマブを評価した。
16 ALK陽性疾患:治療の可能性が広がる
ALK陽性進行非小細胞肺がん患者の標準治療には、第1世代ALK阻害薬クリゾチニブ、さらに最近では、セチニブおよびアレクチニブのような第2世代ALK TKIが含まれる。第III相ALEX試験では、ステージIIIB / IV ALK陽性非小細胞肺がん患者が投与されたクリゾチニブと比較して、CNS活性型ALK阻害剤アレクチニブを一次治療薬として使った。この試験では、無症候性脳転移が認められた。
「シーケンシングの課題」
アファチニブは、肺扁平上皮がん患者の二次治療薬として認可されています。アファチニブとペンブロリズマブの併用療法を試験中です。このレジメンから何が期待できるでしょうか? 非常に興味深いレジメンだと思います。アファチニブが肺扁平上皮がんに役に立つことがわかっています。LUX-Lung 8試験では、エルロチニブよりもPFSおよびOSが改善されることが示されました[1]
第3世代EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)最新データ
EGFR TKI治療は、進行性EGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺がん患者のための標準的な一次治療である。確立された薬剤には、第1世代のゲフィチニブおよびエルロチニブ、第2世代のアファチニブおよびダコミチニブ、ならびに第3世代のTKIオシメルチニブがある。EGFR TKIと他の薬剤を併用することで最大の治療成果が得られることがあり、ベバシズマブおよびラムシルマブなどの抗血管新生阻害剤の追加投与が例として挙げられる。
免疫チェックポイント遮断:治療成功の成功のカギを握る要素
PD-L1発現以外にもさまざまな臨床的要素が、免疫チェックポイント阻害の有効性の予測因子として検討されている。特に、非小細胞がんでは非喫煙とPD-1経路遮断に対する反応の低さとに関連性があることを複数の解析が示している。非喫煙者または軽度喫煙者の肺がんは一般に低TMBを示すことが一つの説明となる[3]。喫煙曝露が大きくなるにつれて、メガベースあたりの突然変異の数も同様に増加する。TMBは、免疫チェックポイント阻害薬の独立した予測バイオマーカーとして確立しており、高TMBのほうが高い効果がみられる。