特定の集団と条件でのEGFR TKI治療
第1世代EGFR TKIのエルロチニブとゲフィチニブのほか、第2世代EGFR TKIのアファチニブも、進行EGFR変異陽性NSCLCに対する標準一次治療オプションになった。第III相臨床試験において、3つの薬剤すべてが化学療法と比較してPFSと客観的奏効率(ORR)を改善した[1-4]。アファチニブは、エクソン19欠失患者を対象とした第III相LUX-Lung 3/6試験において化学療法と比較してOSを延長させた[5]。第II相LUX-Lung 7臨床試験では、ゲフィチニブと比較してアファチニブはPFS、ORR、治療不成功までの時間を改善した。[6]
LUX-Lung臨床試験の事後解析
LUX-Lung 3/6臨床試験によると、アファチニブの忍容性を指標にした用量調節は、治療効果に影響を及ぼさずに治療関連AEを減らす効果的な手段である[7]。この方法は、アファチニブ曝露の患者間の変動を抑え、AEの発生率と重症度を低減させたが、有効性の転帰は減量の有無にかかわらず同等であった。有効血漿中濃度は維持され、患者報告アウトカム(PRO)の変化は臨床的に意義があるものではなかった。
Schulerらは、LUX-Lung 3、6および7試験でアファチニブ長期奏効例(LTR)の事後解析を行った[8]。これら3件の臨床試験では、アファチニブ治療を受けた患者のそれぞれ10%、10%および12%がLTRであった。患者はは合計で66例であった。治療期間の中央値は、それぞれ50ヶ月、56ヶ月および42ヶ月であった。LTR例では女性とエクソン19欠失患者が大きな割合を閉めたことを除いて、ベースライン時患者特性は試験集団全体で一般的に一貫した。
死亡者数が少なかったため、OS中央 値を推定できなかった。「TR例におけるORRは71~89%の範囲で、LUX-Lung
3、6、7の全集団で見られた値よりも高かった(図1)。」患者5例(8%)がCRであった。PRが患者47例(71%)で、SDが患者9例(14%)で生じた。LTR例はアファチニブ治療に対して良好な忍容性を示した。長期治療は、忍容性を指標にした用量調節またはベースライン時脳転移と無関係であった。また、その後の療法にも有害な影響はなく、試験集団全体における影響と類似していた。同様に、PROは第24週~第160週の間、安定しているように見えた:治療開始と比較して、アファチニブ治療の約3年後にわずかに改善も見られた。
図1:LUX-Lung 3、6および7臨床試験のアファチニブ治療を受けた全集団の奏効率とこれらの試験での長期奏効例(LTR)
大規模アジア人集団でのアファチニブの実環境データ
大規模第IIIb相非盲検試験では、EGFR-TKI療法の経験がない局所進行または転移性EGFR変異NSCLC患者で構成される広範囲のアジア人集団を対象として、アファチニブ治療を現在評価中である。アジア各国で登録された479例の患者のデータの中間解析がWCLCで報告された[9]。集団の2/3が化学療法を受けていなかった。30%が1種類の治療歴があり、10%が2種類以上の治療を受けていた。一般的な変異(エクソン19欠失とL858R変異)が患者の86.0%で見られた。ほぼ20%に無症候性脳転移があった。
コホート全体における症状の進行までの時間(TTSP)および無増悪生存期間(PFS)の中央値はそれぞれ15.3ヶ月、12.1ヶ月であった。TTSPがPFSよりも3ヶ月長いという事実は、実環境の臨床診療および治療ガイドラインを反映して、進行を超えてアファチニブ療法を続けることができることを示唆している。TTSPとPFSは、一般的および稀なEGFR変異患者において、まだ事前の化学療法を受けている患者と受けていない患者においても希望の持てる結果であった。
安全性データはLUX-Lung 3、6および7試験からのものと一致していた。しかし、用量減量の頻度は比較的低く、実環境の診療では大部分のアファチニブ関連AEが対処可能で、治療中止になることは少ないことが確認された。
脳転移と稀な変異での有効性
同様に、患者165例を対象とし韓国の医療実環境を背景としたレトロスペクティブな解析では、一次治療としてのアファチニブが臨床試験と同等またはさらに良好なPFSとOSの転帰を示した[10]。PFSの中央値は19.1か月、OSの中央値は未到達であった。12ヶ月時には患者の91.0%、24ヵ月時にはと70.7%が生存していた。データは、治療開始前に脳転移のあった患者でのアファチニブの有効性も示した。このコホートは集団のほぼ半分(43.0%)に相当した。CNS照射を受けていない患者では、PFSは15.7ヶ月であった。これは、ガンマナイフ手術を受けた患者(15.6ヶ月)のPFSと類似していた。全脳放射線治療を受けた患者のPFS中央値は11.5ヶ月であった。全体として、CNS奏効率は75.9%であった。さらに、T790M以外の稀なEGFR変異を保有する腫瘍に対してもアファチニブ治療が奏効したことがデータで示された(図2)。これらの患者では、分析時にPFS中央値に到達していなかった。臨床試験と比較して、より多くの患者がAEのために用量減量を要したが、これは有効性転帰に影響を及ぼさなかった。
ある症例報告は、稀な変異でのアファチニブの活性を明確に示している[11]。Lorandiらは、骨やリンパ節に既に広範囲に広がっている肺腺癌の39歳女性患者の症例について述べた。検査の結果、てエクソン20の挿入が明らかになった。エクソン19欠失とL858R点変異のある患者には一般的にTKI療法は有益であるが、エクソン20挿入などの他の変異のある患者には有益ではない。しかし、この患者はプラチナベース化学療法を受けた後にアファチニブ治療を提案され、化学療法の維持を受け入れる気持ちがなかったことから代わりの治療を求めた。アファチニブ治療の開始後、患者は長期部分奏効を達成した。
図2:一般的および稀なEGFR変異のある患者でのアファチニブの活性
可能性のある併用
アファチニブと抗VEGF抗体ベバシズマブの相乗効果を示唆する前臨床データに基づき[12]、Kuyamaらは化学療法を受けていない進行EGFR変異NSCLC患者19例において一次治療としてのアファチニブとベバシズマブの併用を評価する第I相臨床試験を行った[13]。アファチニブを2種類の用量レベル(40mg/日または30mg/日)で試験した。
分析によって、推奨レジメンとしてアファチニブ30mg/日とベバシズマブ15mg/kgを特定した。この併用療法は良好な忍容性を示し、臨床活性のエビデンスを示した。ORRは16例の評価可能な患者の81.3%で見られ、その全員が疾患制御を達成した。
別の第I相臨床試験では、進行したEGFR変異転移NSCLC患者を対象として、ゲフィチニブまたはエルロチニブによるEGFR TKI一次治療後にアファニチブのカルボプラチンとペメトレキセドとの併用を評価した[14]。アファチニブ20mg/日(第8日~18日)およびペメトレキセド500mg/m2とカルボプラチンAUC 5(第1日から21日ごとに)の併用投与が臨床活性を示した。PFSの中央値は16.2か月、疾患制御率(DCR)は100%であった。
ダコミチニブ:EGFR変異サブタイプによる活性
ランダム化非盲検第III相ARCHER 1050臨床試験では、一次療法条件で治験中の第2世代EGFR TKI、ダコミチニブを試験した。進行EGFR変異NSCLC患者はダコミチニブまたはゲフィチニブのいずれかの治療を受けた。この臨床治験には、脳転移例は含まれなかった。ゲフィチニブと比較して、ダコミチニブはPFSの有意な改善を示した(14.7ヶ月対9.2ヶ月;p<0.0001)[15]。
EGFR変異サブタイプによる治療の活性を評価するARCHER 1050試験のプロスペクティブサブグループ分析によって、ダコミチニブがエクソン19欠失とL858R変異の両方がある患者に有効であることが示された[16]。ゲフィチニブと比較して、両方の患者集団でPFSが延長した(エクソン19欠失、16.5ヶ月対9.2ヶ月;HR、055;p<0.0001; L858R変異、12.3ヶ月対9.8ヶ月;HR、0.63;p=0.0034)。EGFR TKI治療全体にわたってORRは同等だった一方(すなわち、すべてのコホートで約70 %)、ダコミチニブの治療を受けている患者は両方の遺伝学的サブグループで有意に長い期間の奏効を達成した(エクソン19欠失、15.6ヶ月対8.3ヶ月;HR、0.454;p<0.0001;L858R変異、13.7ヶ月対7.5ヶ月;HR、0.403; p<0.0001)。
参考文献
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- Mok TS et al., Gefitinib or carboplatin-paclitaxel in pulmonary adenocarcinoma.N Engl J Med 2009; 361: 947-957
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- Sequist LV et al., Phase III study of afatinib or cisplatin plus pemetrexed in patients with metastatic lung adenocarcinoma with EGFR mutations.J Clin Oncol 2013; 31: 3327-3334
- Yang JC-H et al., Afatinib versus cisplatin-based chemotherapy for EGFR mutation-positive lung adenocarcinoma (LUX-Lung 3 and LUX-Lung 6): analysis of overall survival data from two randomised, phase 3 trials.Lancet Oncol 2015; 16: 141-151
- Park K et al., Afatinib versus gefitinib as first-line treatment of patients with EGFR mutation-positive non-small-cell lung cancer (LUX-Lung 7): a phase 2B, open-label, randomised controlled trial.Lancet Oncol 2016; 17: 577-589
- Hirsh V et al., Afatinib dose adjustment: effect on safety, efficacy and patient-reported outcomes in the LUX-Lung 3/6 trials in EGFRm+ NSCLC.WCLC 2017 P3.01-075
- Schuler M et al., Analysis of long-term response to first-line afatinib in the LUX-Lung 3, 6 and 7 trials in advanced EGFRm+ NSCLC.WCLC 2017, P3.01-026
- Wu Y-L et al., A phase IIIb open-label, single-arm study of afatinib in EGFR-TKI-naïve patients with EGFRm+ NSCLC: An interim analysis.WCLC 2017, P3.01-036
- Kim Y et al., First-line afatinib for non-small cell lung cancer in real-world practice.WCLC 2017, P3.01-023
- Lorandi V et al., A case of a patient harboring an EGFR insertion of exon 20 and long lasting clinical response to afatinib.WCLC 2017, P2.03-029
- Ninomiya T et al., Afatinib prolongs survival compared with gefitinib in an epidermal growth factor receptor-driven lung cancer model.Mol Cancer Ther 2013; 12(5): 589-597
- Kuyama S et al., A phase I trial of afatinib and bevacizumab in untreated patients with advanced NSCLC harboring EGFR mutations: OLCSG1404.WCLC 2017, P1.03-038
- Yamaguchi Ou et al., A phase I study evaluating the combination of afatinib, carboplatin and pemetrexed after failure of 1st generation EGFR TKIs.WCLC 2017, P2.03-021
- Mok TS et al., Dacomitinib versus gefitinib for the first-line treatment of advanced EGFR mutation positive non-small cell lung cancer (ARCHER 1050): a randomized, open-label phase III trial.J Clin Oncol 35, 2017 (suppl; abstr LBA9007)
- Wu YL et al., First-line dacomitinib versus gefitinib in advanced non-small cell lung cancer with EGFR mutation subgroups.WCLC 2017, OA 05.01
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