肺がん検診:普段の検診や研究室にとっての課題

Luis M. Montuenga, PhD, Centro de Investigaci溶 M仕ica Aplicada (CIMA); Department of Pathology, Anatomy and Physiology, Schools of Medicine and Sciences; University of Navarra, Pamplona, Spain. IdisNa, Pamplona Spain. CIBERONC, Madrid, Spain
低線量肺がんCT検診が世界的にいまひとつ普及しない原因は何だとお思いになりますか。
低線量CT(LDCT)には効果があり、広く利用するべきだという考えに異を唱える人はいないでしょう。どの国でも費用と認識不足の2つがLDCTの実施の足かせになっていると思います。 LDCTの費用対効果については多くの文献で示されていますし、費用対効果の高さに軍配を上げる文献もあります。肺がん検診に利用していますが、その際に(冠動脈石灰化スコアに基づいて)心疾患や肺気腫といった他の疾患も同時に発見することができます。低線量肺がんCT検診が長年にわたって物議を醸していることが、おそらく認識不足につながっているのだと思います。物議を醸したというところがまだ引っかかっているのでしょうが、全米肺がん検診試験(NLST)や他の診断基準に該当する患者さんへの検診にLDCTを利用することの有用性が、最近のエビデンスではっきりと示されています[1~3]。肺がんに悪いイメージがあることも、LDCTの利用がいまひとつ広まらない理由なのかもしれません。
新規バイオマーカーが肺がん検診の精度をどう向上させられるのでしょう。
まず、バイオマーカーを2つのコンセプトで分けないといけません。一つは、肺がんの診断後に患者さんの転帰を予測するのに利用できるバイオマーカーです。世界肺癌学会(IASLC)のstaging committee(病期分類に関わる委員会)には、予後予測に利用できるバイオマーカーを特定して、TNM分類の有効性を改善することを専門にしている分科会があります。私が所属する研究室でも、早期肺がんを予測できるバイオマーカーの特定に取り組んでいます。
もう一つは、低線量肺がんCT検診に役立てられるバイオマーカーです。まず、スクリーニングプログラムに参加してもらいたい高リスク患者を見つけやすくなる可能性があります。すでに使われているリスクモデルの精度が、このバイオマーカーで高められるかもしれません。遺伝子バイオマーカーや、環境暴露や喫煙習慣を基にしたバイオマーカー以外に、ctDNAもあります。また、肺がん検診に役立てられるバイオマーカーには、良性と悪性の鑑別が困難な肺結節の判断に利用できる面もあります。明らかに良性の肺結節も、間違いなく悪性ですぐに治療が必要な結節もLDCTは検出しますが、症例のおよそ70%では、肺結節の悪性リスクをはっきりと判定できません。このような場合、バイオマーカーによってリスク層別化のレベルが向上するので、結果的にPET検査や生検など 不必要な検査をしなくてすむようになります。
肺がんの早期発見という点ではどのバイオマーカーを有望視していますか。
数が多いので絞るのが難しいですね。バイオマーカーを発見したという文献は本当にたくさんありまして、自己抗体、血中タンパク質のプロファイル、補体分解産物、マイクロRNA、血中遊離メチル化DNA、気道や鼻腔で採取した検体のRNAの特徴といった候補に期待しています[4]。あと、呼気バイオマーカー、メタボロミクス、喀痰細胞診、遺伝的素因、次世代シーケンシングによる血液腫瘍循環DNAの検出といった新規のバイオマーカーや新技術もあります。
ただ、どれも臨床的有用性を検証する必要があるのですが、この検証が一番の問題になっています。新規バイオマーカーが検証の段階までこぎつければ、その後に期待できますが、肺がん検診に活用できそうなもので、この段階に至ったものはまだありません。いくつかのバイオマーカーに臨床試験である種の検証をしておりまして、検診を受けた患者コホートから採取した検体を用いる対照試験などがその一例です。ですが、バイオマーカーが高リスク患者さんや肺がん検診でリスクの程度を特定できなかった患者さんの治療管理に役立ったり、治療管理を改善させたりすることが確認できるように臨床試験をデザインするのが筋だと思います。そうは言っても生体試料を採取しているスクリーニングプログラム自体が少ないので、この問題が簡単に解決するとは思えませんし、すべてのスクリーニングプログラムが協力しあうことや、手順の標準化、試験デザインの改善も必要です。こういった一連の工程を経ることでどのバイオマーカーが有望なのかがわかります。現時点では幅広い領域に利用できるバイオマーカーが市場に出回っていますが、肺がん検診に利活用することで標準治療の効果を上げられるものを発見するのが最重要課題だと思います。
参考文献:
- Aberle DR et al., Reduced lung-cancer mortality with low-dose computed tomographic screening. N Engl J Med 2011; 365(5): 395-409
- Henschke CI et al., CT screening for lung cancer: significance of diagnoses in its baseline cycle. Clin Imaging 2006; 30(1): 11-15
- Yousaf-Khan U et al., Final screening round of the NELSON lung cancer screening trial: The effect of a 2.5-year screening interval. Thorax 2017; 72(1): 48-56
- Seijo LM et al., Biomarkers in lung cancer screening: achievements, promises and challenges. J Thorac Oncol 2019; 14(3): 343-357
© 2020 Springer-Verlag GmbH, Impressum
More posts
再発悪性中皮腫患者への新しい治療選択肢・ニボルマブ
再発悪性中皮腫患者のOSの改善効果を示した第Ⅲ相ランダム化比較試験は最近まで存在していなかった。第Ⅱ相試験の3試験でニボルマブ単独療法のPD-1阻害作用が認められたことで、ニボルマブが日本で承認を受けた。 CONFIRM試験は、再発中皮腫患者を対象にPD-1阻害薬の有効性と安全性を調べた初の第Ⅲ相プラセボ対照ランダム化比較試験である。
肺がん検診:普段の検診や研究室にとっての課題
低線量CT(LDCT)には効果があり、広く利用するべきだという考えに異を唱える人はいないでしょう。どの国でも費用と認識不足の2つがLDCTの実施の足かせになっていると思います。 LDCTの費用対効果については多くの文献で示されていますし、費用対効果の高さに軍配を上げる文献もあります。肺がん検診に利用していますが、その際に(冠動脈石灰化スコアに基づいて)心疾患や肺気腫といった他の疾患も同時に発見することができます。
免疫療法:併用療法そして発現頻度の多い遺伝子変異に関する最新データ
KEYNOTE-189試験でOSおよびPFSに著しい延長効果をもたらした治療レジメンを、EGFR遺伝子・ALK遺伝子感受性変異を伴わない、Ⅳ期の非扁平上皮NSCLCへのファーストラインの標準治療として行い、評価した。 ペムブロリズマブ+プラチナ製剤+ペメトレキセド併用療法を最大で4コースまで行い、その後にペムブロリズマブ+ペメトレキセド併用療法を最大で31コース受けた群(n=410)を、プラセボ+プラチナ製剤+ペメトレキセド併用療法の実施後にプラセボ+ペメトレキセド併用療法を受けた群(n=206)と比較し評価した。
小細胞肺がんに関する最新知見
小細胞肺がん(SCLC)は転写因子に依存する悪性腫瘍であることがわかっているので、新規治療法はトランス活性化転写因子の阻害薬で構成している。そこで、Rudinらは、主な4種類の転写制御因子の差次的発現ごとにSCLCを4通りのサブタイプに分類した。 発がん性転写因子を選択的に阻害し、がん微小環境を調節することで作用するルルビネクテジンは、第Ⅱ相試験成績に基づいて、プラチナ製剤ベースの化学療法の最中やその後に病勢が進行した転移性SCLC患者への治療薬として、FDAより2020年6月に迅速承認を受けた。
抗体薬物複合体:可能性が広がりゆく時代が始まる
抗体薬物複合体が登場したことでまったく新しい常識が生まれたと思っています。分子標的治療はある特定の遺伝子変異の発現が必須ですし、免疫療法は腫瘍にネオアンチゲンが発現していないと効きません。 腫瘍がどちらの治療にも反応することが前提にもなっています。ご存じのように両治療とも効果がいつまでも続くわけではありませんし、患者さん全員に効果があるわけでもなく、それに全員に標的の遺伝子変異があるとは限りません。
EGFR遺伝子変異陽性NSCLCに特化した治療薬
EGFRエクソン20挿入遺伝子変異は、EGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者のおよそ5~12%、NSCLC全体で見れば2%から検出されている。エクソン20挿入遺伝子変異はL858R点突然変異、エクソン19欠失変異に次いで3番目に多く検出されているが、同変異を伴う肺がんの治療にEGFR TKIは使えない。 TKIに結合するEGFRの部位の構造が立体的になるため、EGFR TKIに感受性を示さなくなるのがその理由である。