まれな遺伝子変異:HER2、RET、ALK、BRAF

DESTINY-Lung01試験:トラスツズマブ デルクステカン

トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)は、ヒト化抗HER2モノクローナル抗体をトポイソメラーゼI阻害薬のエクサテカン誘導体に連結させた新規の抗体薬物複合体である。第II相多施設共同非盲検試験のDESTINY-Lung01試験では、HER2 遺伝子発現(コホート1、n = 42)またはHER2 活性化変異が認められる再発または難治性の進行NSCLC患者(コホート2、n = 42)を対象に、T-DXd 6.4 mg/kgを3週間に1回投与して検証した。ASCO年次総会では、Smitらがコホート2の中間結果を報告した[1]。独立中央判定委員会によって確認された主要評価項目であるORRに関して、T-DXdは著明な臨床効果を示した。患者のほぼ62%が治療に反応し、2.4%が完全奏効を達成した()。解析の時点では、奏効期間の中央値は未到達であり、これはOSも同様であった。PFS中央値は14.0カ月であった。

このHER2 遺伝子変異コホートに観察された安全性プロファイルは、以前の報告とおおむね一致していた。最も多かった治療による有害事象は、悪心、脱毛症、貧血、好中球減少および食欲不振であった。主に疲労および悪心のために投与量が減量されていたが、投与中断は主に好中球減少(19.0%)および肺感染症(7.1%)によるものであった。5人の患者にグレード2の間質性肺疾患(ILD)が発現した。著者らは、ILDは依然として懸念のひとつであり、慎重なモニタリングと管理が必要であると指摘している。全体として、上記のデータはHER2 遺伝子変異陽性のNSCLCに対する新たな治療選択肢としてT-DXdの可能性を示すものである。その一方で、T-DXdのリスク便益比をさらに明確にするために、HER2 遺伝子変異陽性コホートへの登録が拡大されている。

表 DESTINY-Lung01試験でトラスツズマブ デルクステカンによる治療を受けたHER2 活性化変異陽性の患者にみられた有効性の結果

RET融合遺伝子陽性肺がんに対するセルペルカチニブの中枢神経系への影響

RET 融合遺伝子は、NSCLC患者の約2%で確認されている [2, 3]。現在進行中の第I/II相国際共同登録試験のLIBRETTO-001試験では、選択的で中枢神経系(CNS)にも効果を示すRET阻害薬であるセルペルカチニブ(LOXO-292)の有効性を評価している。LIBRETTO-001試験はRET 融合遺伝子陽性の進行固形がん患者を対象に実施されており、そのうち253人がNSCLCである。一次解析を実施したデータセットでは、ORRは68%、奏効は中央値で20.3カ月間持続した[4]。

Subbiahらが発表した測定可能なCNS病変を有するNSCLCのCNS集団(n = 22)からのデータは、セルペルカチニブの頭蓋内効果にさらに大きな光を投じている[5]。全体として、CNSでのORRは81.8%、完全奏効(CR)は22.7%であった。全脳照射歴がない患者は、放射線治療を以前に受けた患者よりもやや良好であった(ORRは前者 85.7%、後者 75.0%、CRは前者 28.6%、後者 12.5%)。抗PD-(L)1による治療歴のある患者もない患者も頭蓋内奏効が認められた。また、これは多標的キナーゼ阻害薬による治療歴の影響を受けなかった。CNS奏効期間の中央値は全群で9.4カ月であった。著者らは、RET 融合遺伝子陽性のNSCLCで中枢神経系転移を有する患者に対して、セルペルカチニブは著明で持続性のある頭蓋内抗腫瘍効果を示すと結論づけた。現在、無症候性の脳転移を有する患者を含む未治療のRET 融合遺伝子陽性NSCLC患者を対象に、プラチナベースの化学療法とペムブロリズマブとの併用またはプラチナベースの化学療法単独と、セルペルカチニブを比較する第III相国際共同ランダム化比較試験が進行中である。

RETキナーゼ阻害薬プラルセチニブ

現在開発段階にあり臨床試験が行われている、もうひとつの選択的RETキナーゼ阻害薬がプラルセチニブ(BLU-667)である。現在進行中の第I/II相国際共同ピボタル試験のARROW試験は、RET 融合遺伝子陽性のNSCLCを含むRET 融合遺伝子変異を有する進行固形がん患者を対象に、プラルセチニブを検討している。Gainorらは、NSCLC患者132人からなる有効性のintent-to-treat(ITT)解析対象集団のデータを報告しており、そのうち116人では有効性評価が可能であった[6]。このITT解析対象集団では、プラチナ化学療法を既に受けた患者が92人、未治療の患者が29人であった。

プラルセチニブは迅速かつ持続性のある奏効をもたらした。独立中央判定委員会による盲検下の判定によれば、有効性評価が可能な患者群のORRは65%であり、6%がCRを達成した。病勢コントロール率は93%であった。奏効期間の中央値はまだ未到達である。評価可能なコホートの未治療患者全員に腫瘍縮小が認められ、12%がCRを達成した。さらに、プラルセチニブは中枢神経系でも強い効果を示し、頭蓋内ORRは56%、CRは33%であった。

本RET阻害薬による治療は忍容性に優れていた。治療関連有害事象は主にトランスアミナーゼ値の上昇、血球減少、便秘、高血圧などであり、ほとんどがグレード1および2であった。著者らは要約として、プラルセチニブはRET 融合遺伝子陽性のNSCLC患者に対する標準治療を変える可能性があることを強調した。

ALEX試験の生存データに関する最新情報

第III相国際共同ランダム化比較試験のALEX試験に関するこれまでの解析によれば、ALK 融合遺伝子陽性の未治療の進行NSCLC患者では、クリゾチニブに対するアレクチニブの優越性が確認されている。成熟したPFSデータから、この評価項目に有意な改善が確認された(アレクチニブ 34.8カ月、クリゾチニブ 10.9カ月)[7]が、OSの結果は成熟していない。さらに12カ月の追跡調査の後、PetersらはOSとその他の評価項目の最新結果を発表した[8]。

この時点ではOSデータはまだ成熟しておらず、5年OS率はアレクチニブが62.5%、クリゾチニブが45.5%であった(ハザード比 0.67、p = 0.0376、)。病勢が進行した患者のうち、両群ともに60%を超える患者に後続治療が行われた。他のALK-TKIによるフォローアップ治療は、アレクチニブ群で病勢進行が認められた患者の38.1%、クリゾチニブ群では53.5%に処方された。アレクチニブの治療期間中央値(28.1カ月)はクリゾチニブ(10.8カ月)の3倍近くまで長くなっていたが、安全性に新たな徴候はなかった。試験担当医師らは結論として、ALEX試験は、ALK 融合遺伝子陽性の未治療の進行NSCLCを対象に、クリゾチニブと比較して、次世代ALK-TKI治療が臨床的に意味のあるOSの改善を示すことを実証した初の国際共同ランダム化比較試験であるとした。

図:ALEX試験で観察されたアレクチニブ群とクリゾチニブ群の全生存率の経時的な変化

:ALEX試験で観察されたアレクチニブ群とクリゾチニブ群の全生存率の経時的な変化

ALTA-1L試験にみられるバイオマーカーの影響

第III相多施設共同非盲検ランダム化比較試験のALTA-1L試験では、ALK-TKIによる治療歴がない、ALK 融合遺伝子陽性の進行 NSCLC患者を対象にブリガチニブを評価した。2回目の中間解析では、クリゾチニブと比較して優れた有効性が示され、忍容性は許容範囲内であった[9]。Camidgeらは、ALTA-1L試験でクリゾチニブと比較したブリガチニブの活性に対する、EML4-ALK 融合遺伝子バリアントおよびその他のベースライン変数の影響を評価した[10]。

ブリガチニブは、EML4-ALK 融合遺伝子バリアントやTP53 変異の有無にかかわらず、ORRおよびPFSに関してクリゾチニブよりも優れていた。EML4-ALK 融合遺伝子バリアント3(V3)を有する患者は、治療法に関係なく、V1またはV2を有する患者よりもPFSが不良であったため、このバリアントによって予後を予測できると考えられた。ブリガチニブは、特にこのV3陽性患者の予後不良群に対して優れたPFSを示した(ハザード比 0.30)。また、TP53 変異が予後不良の独立したバイオマーカーであることを示す傾向が多変量解析でも継続して示されており、さらに大きな対象集団での検討が必要である。ALK 融合遺伝子陽性の進行NSCLCでもリスクの高いものを明らかにすることが、今後の臨床試験デザインや治療選択肢に影響を与える可能性がある。

BRAF V600E遺伝子変異陽性がん:ダブラフェニブとトラメチニブ

ダブラフェニブは、第II相多施設共同非盲検非ランダム化試験で、BRAF-V600E遺伝子変異陽性の転移性NSCLC患者を対象に、単剤療法およびトラメチニブとの併用療法として評価された。一次解析から、ダブラフェニブとトラメチニブの併用による強い臨床効果と管理可能な安全性プロファイルが明らかにされた[11]。ASCO年次総会では、Planchardらが、コホートB(治療歴のある患者)およびコホートC(未治療患者)の併用療法集団に関して、最新のOSおよびゲノム解析データを発表した[12]。

ダブラフェニブとトラメチニブを併用した場合、CR率とPR率を合わせると、コホートBでは68.4%、コホートCでは63.9%となった。奏効期間はコホートBが9.8カ月、コホートCが10.2カ月であった。OSはコホートBで18.2カ月、コホートCで17.3カ月であった。ゲノム解析の結果、PI3K経路に遺伝子変異を有する患者ではOSに減少傾向がみられたことから、複数の遺伝子変異の同時発現が臨床アウトカムに影響を与えることが示唆された。併用療法の毒性は管理可能であり、その安全性プロファイルは、ダブラフェニブとトラメチニブを併用している悪性黒色腫の患者に関して報告されているものと一致していた。全体として、この併用療法はリスク便益比が良好であり、治療歴に関係なく持続的な臨床効果をもたらした。

参考文献:

  1. Smit E et al., Trastuzumab deruxtecan in patients with HER2-mutated metastatic non-small cell lung cancer: interim results of DESTINY-Lung01. J Clin Oncol 38: 2020 (suppl; abstr 9504)
  2. Takeuchi K, Discovery stories of RET fusions in lung cancer: a mini-review. Frontiers Physiol 2019; 10: 216
  3. Tsuta K et al.RET-rearranged non-small-cell lung carcinoma: a clinicopathological and molecular analysis. Brit J Cancer 2014; 110(6): 1571-1578
  4. Drilon A et al., Registrational results of LIBRETTO-001: a phase 1/2 trial of selpercatinib (LOXO-292) in patients with RET-fusion–positive lung cancer. WCLC 2019, abstract #PL02.08
  5. Subbiah V et al., Intracranial activity of selpercatinib (LOXO-292) in RET fusion-positive non-small cell lung cancer (NSCLC) patients on the LIBRETTO-001 trial. J Clin Oncol 38: 2020 (suppl; abstr 9516)
  6. Gainor JF et al., Registrational dataset from the phase 1/2 ARROW trial of pralisetinib (BLU-667) in patients with advanced RET fusion+ non-small cell lung cancer (NSCLC). J Clin Oncol 38: 2020 (suppl; abstr 9515)
  7. Mok T et al., Updated overall survival and final progression-free survival data for patients with treatment-naïve advanced ALK-positive non-small-cell lung cancer in the ALEX study. Ann Oncol 2020; S0923-7534(20)39796-9
  8. Peters S et al., Updated overall survival and safety data from the randomized, phase III ALEX study of alectinib vs crizotinib in untreated advanced ALK+ NSCLC. J Clin Oncol 38: 2020 (suppl; abstr 9518)
  9. Camidge DR et al., Brigatinib vs. crizotinib in patents with ALK inhibitor-naïve advanced ALK+ NSCLC: updated results from the phase III ALTA-1L trial. Ann Oncol 2019; 30 (suppl_9): ix183-ix202
  10. Camidge DR et al., Correlation of baseline molecular and clinical variables with ALK inhibitor efficacy in ALTA-1L. J Clin Oncol 38: 2020 (suppl; abstr 9517)
  11. Planchard D et al., Dabrafenib plus trametinib in patients with previously untreated BRAFV600E-mutant metastatic non-small-cell lung cancer: an open-label, phase 2 trial. Lancet Oncol 2017; 18(10): 1307-1316
  12. Planchard D et al., The updated overall survival and genomic analysis from a single-arm phase 2 study of dabrafenib plus trametinib in patients with BRAFV600E mutant metastatic non-small cell lung cancer. J Clin Oncol 38: 2020 (suppl; abstr 9593)

© 2019 Springer-Verlag GmbH, Impressum

More posts

抗血管新生療法の現状と今後の展望

抗血管新生療法の現状と今後の展望 経口トリプルアンジオキナーゼ阻害薬のニンテダニブは、化学療法による一次治療後の進行肺腺がんに対するドセタキセルとの併用療法と