免疫療法を受ける患者の転帰への抗PD-L1抗体薬の活性および決定因子に関する新データ
PACIFIC試験ではデュルバルマブ群の生存率が優位に
切除が不可能なⅢ期の非小細胞肺がん(NSCLC)患者への標準治療には、従来からプラチナ製剤ベースの化学療法が行われてきた。しかし、転帰不良となり、PACIFIC試験の第Ⅲ相試験でその根拠があきらかになる結果となった。PACIFIC試験では、プラチナ製剤ベースの根治的化学放射線療法を受け、無増悪の状態が持続している患者を対象に、抗PD-L1抗体薬であるデュルバルマブ10 mg/kgを隔週(Q2W)で最長12か月間投与する群(n=476)と、プラセボを投与する群(n=237)に分けて比較検討した。 なお、同試験ではPD-L1発現の有無を問わず参加者を募っている。デュルバルマブ群の無増悪生存期間(PFS)の優位性は、最初の中間解析時に示され、PFSが11.2か月に改善していた[1]。
2018年度世界肺癌学会議では、Antoniaらが副次評価項目である全生存期間(OS)の他に、PFSとそれ以外の副次評価項目について報告している[2]。OSに関しては、プラセボ群に対してデュルバルマブ群のITT解析対象集団の改善に統計学的有意性と臨床的意義が認められた。デュルバルマブ群のOSの中央値はまだ判明していないが、プラセボ群のその中央値は28.7か月である(HR:0.68、 p=0.00251、図1)。24か月後にはデュルバルマブ群の66.3%が生存していたのに対して、プラセボ群で生存していたのは55.6%であった。初回の中間解析でのPFSはデュルバルマブ群が優位になっており、その差は11か月であった(デュルバルマブ群は17.2か月、プラセボ群は5.6か月、HR:0.51)。
図1:切除不能なⅢ期のNSCLC患者に化学放射線療法を行った後、プラセボ投与群に比べてデュルバルマブ投与群で死亡率が統計学的有意性をもって低下。
プラセボ群と比較すると、これと同様に死亡までの時間もしくは遠隔転移そして新病変の発現率の改善も維持していた。
すべてのサブグループでOSとPFS両方は、デュルバルマブ群に軍配が上がった。PD-L1に関する解析を2通り行った。1つの解析は事前解析とし、もう1つの解析は予定外の事後解析とした。カットポイントは両解析で異なる(事前解析は25%、事後解析は1%)。事後解析で腫瘍がPD-L1陰性となった患者の場合、OSにもPFSにもデュルバルマブの効果は認められなかった。長期間のフォローアップ後も、安全性に警鐘を鳴らすような新たな所見はなかった。PACIFIC試験は、切除が不可能なⅢ期のNSCLC患者に支持療法として化学放射線療法を行った後、デュルバルマブを標準治療として1年間投与した場合に生存率が改善することを示す初の試験となったと、著者らは述べている。
IMpower133試験:小細胞肺がんへの標準化学療法にアテゾリズマブを追加
小細胞肺がん(SCLC)患者へのファーストライン治療に、20年以上ぶりに小さな進展が見られた。この試験の対象者の大半は進展型小細胞肺がん(ES-SCLC)であるが、その場合の標準治療はプラチナ製剤とエトポシドの併用療法である。だが、ファーストライン治療の奏効率は高いものの転帰不良となっていた。
国際共同二重盲検プラセボ対照ランダム化試験、IMpower133試験の第Ⅱ相試験と第Ⅲ相試験では、ES-SCLC患者を対象に、ファーストライン治療として抗PD-L1抗体薬であるアテゾリズマブとカルボプラチン+エトポシドの併用群(n=201)と、プラセボとカルボプラチン+エトポシドの対照群(n=202)を評価した[3]。IMpower133試験は、現行のファーストライン治療を超える、臨床的意義のあるOSの改善が20年以上ぶりに見られる試験となった。アテゾリズマブを追加することで、両群のOSが統計学的有意性をもって延長し(アテゾリズマブ群12.3か月、プラセボ群10.3か月、HR:0.70、p=0.0069)、治験責任医師がもう一つの主要評価項目として評価したPFSも同様に伸びを見せた(アテゾリズマブ群5.2か月、プラセボ群4.3か月、HR:0.70、p=0.017)。12か月後に生存していた患者はアテゾリズマブ群で51.7%、プラセボ群では38.2%であり、増悪が認められなかったのはそれぞれ12.6%と5.4%であった。脳転移のある患者を除き、OSのサブグループ解析でもすべてのサブグループでアテゾリズマブ群が優勢となった。これは、アテゾリズマブを投与するメリットが遺伝子変異量(TMB)の多い患者に限ったものではないという意味である (図2)。
図2:IMpower133試験:脳転移のある患者を除いて、遺伝子変異量の少ない患者も含めすべてのサブグループで全生存期間が改善。
奏効率は両群間で差異はなかったが、奏効期間の長さについてはアテゾリズマブ群が長くなった(アテゾリズマブ群4.2か月、プラセボ群3.9か月、HR:0.70)。6か月後
(アテゾリズマブ群32.2%、プラセボ群17.1%)および12か月後(アテゾリズマブ群14.9%、プラセボ群6.2%)の無再発生存率にも、アテゾリズマブ群に大きな改善が見られた。また、アテゾリズマブ群の相当数の患者で奏効した状態が続いていた(アテゾリズマブ群14.9%、プラセボ群5.4%)。生存転帰とPD-L1の発現状態との間に考えられる相関性はまだ証明されていないが、今後この点が明らかになるだろう。
有害事象(AE)発現率に関しては、両群とも同様であった。両群の患者の大部分に血液学的毒性が最も多く見られたが、アテゾリズマブの追加投与で発現率が変わることはなかった。両群ともカルボプラチンとエトポシドの投与量の中央値は同じで、送達量にアテゾリズマブの追加投与が影響しなかったことがうかがえる。ここでも安全性に警鐘を鳴らすような新たな所見はなかった。これらのデータを総合すると、カルボプラチンとエトポシドの併用療法にアテゾリズマブを追加することは、ES-SCLC患者への新しい標準的なファーストライン治療になりうることが示された。
ネオアジュバント療法としてのアテゾリズマブ投与に期待できる臨床活性
多施設共同非盲検単群試験、LCMC3試験の第Ⅱ相試験では、切除可能なNSCLC患者を対象にネオアジュバント療法としてのアテゾリズマブ投与について評価している。同試験の第1部で得た有効性と安全性の事前データが、アメリカ臨床腫瘍学会(ASCO)の2018年度の総会で発表された[4]。
患者54人から得た安全性と有効性の新データを、Ruschらが発表している[5]。
EGFR遺伝子変異もALK融合遺伝子も認められない45人が切除術を受けた。45人のうち10人(22%)が病理学的奏効(活動性のある腫瘍細胞が10%以下と定義)得て、3人(7%)が病理学的完全寛解を得た。ベースライン時からの病変の大きさの変化と、活動性のある腫瘍細胞の量に相関性はないように思われた。ネオアジュバント療法としてのアテゾリズマブ投与の忍容性は高く、手術の大幅な遅れや腫瘍切除への悪影響も認められなかった。追跡期間中の中間解析の対象者は90人を予定している。
セカンドライン治療としてのアベルマブ投与:一次解析で好ましくない結果が生じる
非盲検ランダム化試験、JAVELIN Lung 200試験の第Ⅲ相試験では、ファーストライン治療後に、抗PD-L1抗体薬のアベルマブ10 mg/kgの隔週投与とドセタキセルを評価した[6]。ここで対象になったのはプラチナダブレット療法を受けた後に、病勢が進行した患者である。一次解析の対象患者はPD-L1の発現が1%以上ある529人である。
一次解析対象者の間では、主要評価項目のOSに差異はなかったが(アベルマブ群11.4か月、ドセタキセル群10.3か月、HR:0.90、p=0.1627)、著者が指摘するように、同試験ではドセタキセル群の患者にその後、高用量の免疫チェックポイント阻害薬(ICI)を投与したことが影響したのかもしれない。事前に指定した予備のサブグループ解析からは、ドセタキセル群のPD-L1の発現率がより多い患者に比べて、アベルマブ群の患者には同薬の臨床活性の上昇が見られた。たとえば、発現率が80%以上の患者の場合、OSの中央値はアベルマブ群が17.1か月、ドセタキセル群は9.3か月となった(HR:0.59、p=0.0022)。また、PFS(アベルマブ群5.6か月、ドセタキセル群2.8か月、HR:0.58、p=0.0021)と奏効率(ORR:アベルマブ群31%、ドセタキセル群10%、p=0.0002)に関しても多大な改善が認められている。有害事象の発現についても、ドセタキセル群に比べてアベルマブ群に総体的に良好な結果が見られた。NSCLC患者を対象にアベルマブを評価する複数の臨床試験が行われており、PD-L1陽性のNSCLC患者を対象にアベルマブ単独のファーストライン治療を行うJAVELIN Lung 100試験(NCT02576574)の第Ⅲ相試験は、その一つである。
生存に関する評価項目への抗菌薬療法の影響
NSCLCも含め様々ながんの患者に抗菌薬を投与すると、ICIへの治療反応が変化することを、後ろ向き研究のデータが示唆している[7、8]。免疫系の発達や成熟に必要な役割を担う腸内細菌に抗菌薬が影響することが、その理由なのかもしれない[9]。
セカンドライン治療あるいはそれ以降の治療で、ニボルマブまたはペンブロリズマブを投与された一連のNSCLC患者168人を対象にした多施設共同後ろ向き研究からは、抗菌薬が生存転帰に悪影響を及ぼした可能性のあることがわかった[10]。ICIの投与開始の2か月前または開始から1か月以内に、対象患者のほぼ半数に抗菌薬を投与した。抗菌薬を投与されなかった患者に比べ投与された患者では、OSの中央値が統計学的有意性をもって短くなった(抗菌薬投与群8.1か月、抗菌薬未投与群11.9か月、HR:1.55、p=0.027)。
抗菌薬の投与経路がOSに影響するのかどうかも、治験責任医師らが調査した。その結果、経口投与した患者よりも、静脈内投与した患者のOSに著明な悪影響を与えていたことが判明(HR:静脈内投与群3.62、経口投与群1.17)。抗菌薬の静脈内投与がまた別の危険因した子であることを、多変量解析で確認した。評価項目のPFSへの抗菌薬投与とその投与経路についても、同様の結果を得た。
また、下気道感染症や尿路感染症に罹患した患者のOSの中央値が、これら以外の感染症に罹患した患者のそれよりもかなり短くなっていたため、感染症の種類も転帰に影響を与えるのかもしれない(下気道感染症・尿路感染症群6か月、それ以外の感染症群26か月、p=0.006)。ただ、後ろ向き研究で行う多変量解析の特徴を考えると、この結果を前向き研究で確認する必要がある。ICI療法を受ける患者には当面、冷静に判断して抗菌薬を投与することを、著者らは勧めている。
ICI療法でのドライバー変異と転帰
肺がんに関係するドライバー遺伝子変異が検出されている患者にはICIの効果が落ちると考えられているが、ドライバー変異の頻度が低く、こういった患者は臨床試験から除外されるため、この件を証明できるデータの量は限られている。そこでVokesらは、EGFR遺伝子変異(L858R点突然変異、エクソン19欠失変異、エクソン20挿入変異、OncoKB分類システム上のミスセンス変異)、ALK融合遺伝子、ROS1融合遺伝子、RET融合遺伝子、METエクソン14スキップ変異(METΔ14)、BRAF V600Eミスセンス変異といった特定のドライバー変異のある、ICI療法を受ける患者82人の転帰を評価した[11]。これらの患者はサードライン以降の治療で免疫療法を受けている。100万個の塩基ごとの非同義変異の数をTMBとして算出した。
PFSについては、この変異のある患者群と野生型の患者群の間に差異はなかった。数は少ないものの、EGFR遺伝子変異、RET融合遺伝子、ROS1融合遺伝子、ALK融合遺伝子が検出された患者の転帰が不良となる傾向が見られた
(表)。一方、PFSに関しては、EGFR遺伝子変異のある患者とMETΔ14のある患者、そして野生型の患者で似通っていた。RET融合遺伝子のある患者群を除き、各サブタイプの患者群で1人以上がPFS6か月超を達成していた。EGFR遺伝子変異、BRAF V600Eミスセンス変異、METΔ14の各患者群で1人以上のPFSが12か月を超えており、このうちの一部の患者は統計学的有意性のあるICI療法の有用性を享受したことが示された。また、ドライバー変異のある患者とない患者の奏効率に統計学的有意差はなかったが、EGFR遺伝子変異、ALK融合遺伝子、RET融合遺伝子を検出した患者の奏効率が低くなる傾向が見られた。 EGFR遺伝子変異のサブタイプ別に行った探索的データ解析を見ると、L858R点突然変異のある患者群とエクソン20挿入変異のある患者群の方が、他の変異のある患者群よりもICIが奏効する患者が少なかった。TMBは予想した通り、野生型の患者群よりもドライバー変異のある患者群で少なくなっていた。ドライバー変異のある患者群全体だけでなく、サブタイプごとの患者群であっても、このマーカーと奏効率に相関性はなかった。
ドライバー変異の特定のサブタイプで奏効率が低くなるとしても、ドライバー変異がある、あるいはTMBが少ないからといって、こういった患者をICI療法の治験から除外すべきでないと、研究者らは締めくくっている。さらなる後ろ向き研究および前向き研究が必要なことは間違いない。
参考文献:
- Antonia SJ et al., Durvalumab after chemoradiotherapy in stage III non-small-cell lung cancer. N Engl J Med 2017; 377(20): 1919-1929
- Antonia SJ et al., Overall survival with durvalumab versus placebo after chemoradiotherapy in stage III NSCLC: Updated results from PACIFIC. WCLC 2018, PL02.01
- Liu SV et al., IMpower133: primary PFS, OS, and safety in a ph1/3 study of 1L atezolizumab + carboplatin + etoposide in extensive-stage SCLC. WCLC 2018, PL02.07
- Rusch VW et al., Neoadjuvant atezolizumab in resectable non-small cell lung cancer (NSCLC): Initial results from a multicenter study (LCMC3). J Clin Oncol 36, 2018 (suppl; abstr 8541)
- Rusch VW et al., Neoadjuvant atezolizumab in resectable non-small cell cancer (NSCLC): updated results from a multicentre study (LCMC3). WCLC 2018, MA04.09
- Barlesi F et al., Avelumab vs docetaxel for previously treated advanced NSCLC: primary analysis of the phase 3 JAVELIN Lung 200 trial. WCLC 2018, OA05.05
- Derosa L et al., Negative association of antibiotics on clinical activity of immune checkpoint inhibitors in patients with advanced renal cell and non-small-cell lung cancer. Ann Oncol 2018; 29(6): 1437-1444
- Routy B et al., Gut microbiome influences efficacy of PD-1-based immunotherapy against epithelial tumors. Science 2018; 359(6371): 91-97
- Ubeda C & Pamer EG, Antibiotics, microbiota, and immune defense. Trends Immunol 2012; 33(9): 459-466
- Mielgo Rubio X et al., Antibiotic use and PD-1 inhibitors: shorter survival in lung cancer, especially when given intravenously. Type of infection also matters. WCLC 2018, MA10.01
- Vokes N et al., Efficacy and genomic correlates of response of anti-PD1/PD-L1 blockade in non-small cell lung cancers harboring targetable oncogenes. WCLC 2018, MA19.01
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