まれなドライバー変異であっても重要性は高い
Stephen Liu, MD, Lombardi Comprehensive Cancer Center at Georgetown University(米国・ワシントンDC)
NRG1融合遺伝子を標的にした治療法への臨床評価は、今のところどこまで進んでいるのでしょう。
NRG1融合遺伝子変異が生じることは比較的少ないのですが、あらゆるタイプのがんで形質転換を起こさせるものです。すべてのタイプのがんで発生頻度は1%未満にすぎず、NRG1融合遺伝子の発生頻度は0.2%程度という報告もあります[1]。非常にまれにしか発生しませんが、大変問題になるドライバー変異のひとつと言えます。細胞レベルで何が起きるのかというと、 NRG1の融合相手の遺伝子がNRG1のEGF様ドメインに膜貫通アンカーを与えます。その後、EGF様ドメインがHER3やHER4と結合するリガンドのようになってヘテロ二量体を形成し、MAPK/PI3Kシグナル伝達経路を介してリン酸化させてシグナルを伝えます。
本総会で報告のあった、現在実施中の前向き臨床試験や計画段階の臨床試験の最新データに、NRG1融合遺伝子陽性肺がんへの薬理活性の兆しを見いだしています。前回の症例報告でErbB受容体ファミリー阻害薬のアファチニブが奏効したことを確認していますが、今回報告のあった最新データでその事実がさらに強まりました[2]。症例報告の性質上、はっきりした奏効率が分かるわけではありませんが、NRG1融合遺伝子が問題のドライバー変異であることは分かり、そのターゲットに対して期待すること、つまり即効性、安定した効果、劇的な効果のあることも伝わります。この融合遺伝子がターゲットであることに間違いはないので、これを検出したらすぐに対策をとらなければなりません。複数の臨床試験が進んでいますので、ごくまれにしか起きないとはいえ非常に重要な遺伝子変異のある患者についてのデータを、数年後に目にすることができればと思っています。
近い将来、登場しそうな肺がんへの新しい分子標的治療薬はありますか。
NSCLCを治療する上で遺伝子変異を特定することは、確かに第一選択薬を選ぶ際の指標になります。今のところ、EGFR、ALK、ROS1、BRAF、NTRKの遺伝子変異が陽性の肺がんへの治療薬が承認を受けています。最近ではRET融合遺伝子がドライバー変異として見受けられます。セルパーカチニブ(selpercatinib)やプラルセチニブ(pralsetinib、BLU-667)といった非常に選択性の高いRETチロシンキナーゼ阻害薬が、RET融合遺伝子陽性のがんを適応に承認を受けてほしいと思っています。METエクソン14スキップ変異、EGFRのエクソン20挿入変異、HER2挿入変異はいずれも問題になるドライバー変異であることは確かです。FDAが承認した、これらの遺伝子変異を標的にする分子標的治療薬はまだありませんが、いずれ必ず登場します。NRG1融合遺伝子陽性肺がんへの分子標的治療薬ですが、この薬剤の有効性を示した前向き試験はまだありません。ですが、有効性を示す試験がいずれ出てくるでしょう。
今分かっているまれなドライバー変異よりもおそらく発生頻度は少ないでしょうから、そう簡単に検出できるとは思えませんが、未知のドライバー変異はまだ他にも存在してるでしょう。ドライバー変異はがんの生物学的特性に影響を与えたり、個々の患者に適した分子標的治療薬を選ぶ基準になったりするので、これを特定することが重要になります。また、免疫療法を選択肢から外すときにも役立つ可能性があります。
参考文献:
- Jonna S et al., Detection of NRG1 gene fusions in solid tumors.Clin Cancer Res 2019; 25(16): 4966-4972
- Liu SV et al., Targeting NRG1 fusions in multiple tumour types: afatinib as a novel potential treatment option.ESMO 2019, abstract 1969P
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