CNS病変の存在は治療成功の妨げにならない
診断時にあった神経症状の負担が生存率に及ぼす影響
転移性NSCLC患者の約35%に脳転移を認めており、これがさまざまな神経症状の原因になるだけではなく、予後不良の要因にもなっている[1]。一方で、診断時に生じていた脳転移による神経症状が予後に及ぼす影響については、ほとんど知られていない。ウィーンで行われている脳転移に関する登録データで、新たにこの診断を受けた実際のNSCLC患者1,608人分のデータを解析し、この影響を評価した[2]。73.8%の患者に神経症状が起きており、その内訳は神経障害(61.3%)、頭蓋内圧亢進の徴候(30.3%)、てんかん発作(13.6%)、神経心理症状(14.5%)である。
この解析結果によると、症状のある患者に比べて、わずかな症状しかない患者やまったく症状のない患者で、脳転移の診断を受けた後のOSの中央値が統計学的有意に長くなっていた(症状がわずかまたはない患者群は11か月、ある患者群は7か月、p<0.001)。興味深いことに、頭蓋内圧亢進の徴候がある患者と生存期間の延長との間に統計学的に有意な相関性がみられた(徴候がある患者群は8か月、ない患者群は6か月、p=0.032)。神経症状と診断時以後の生存期間に、独立した相関性のあることが多変量解析で明らかになった。脳転移のあるNSCLC患者の予後を予測する際には神経症状によってかかる負担を加味することが必要だと、この研究は強調している。
脳転移の有無別のペムブロリズマブ単独療法群の転帰
KEYNOTE-001、010、024、042の各試験ではNSCLC患者を対象に、ペムブロリズマブ単独療法を化学療法と比較検討している[3~6]。この4試験の成績にプール解析を行い、ベースライン時の脳転移の有無別にPD-L1陽性NSCLCへのペムブロリズマブの有効性を調査している[7]。すべての試験で脳転移を認める患者に探索解析を行うことと定めた。脳転移のある患者293人(ペムブロリズマブ群:199人、化学療法群:94人)およびそれがない患者2,877人(ペムブロリズマブ群:1,754人、化学療法群:1,123人)の、合計3,170人に関するデータをMansfieldらが報告した。腫瘍細胞のうちPD-L1発現が陽性になる細胞の割合を表すTPSが50%以上の患者が、各群でおよそ半数を占めた。
ベースライン時に脳転移を認めた患者でも、そうでない患者でも、TPSが50%以上の場合はペムブロリズマブの臨床的有用性はほぼ同じだった。脳転移のある患者のOSの中央値はペムブロリズマブ群が19.7か月、化学療法群が9.7か月に対して、脳転移のない患者では前者が19.4か月、後者が11.7か月になった(HR:0.66)。脳転移のある患者のPFSはペムブロリズマブ群が4.1か月、化学療法群が4.6か月(HR:0.70)、脳転移のない患者では前者が6.5か月、後者が6.1か月と、同等のリスク低下がみられた(HR:0.69)。これと同様に、TPSが1%以上の患者群でもペムブロリズマブによるOSとPFSの延長効果を認めた。
すべての腫瘍を測定して得た奏効率は脳転移の有無にかかわらず、化学療法群よりもペムブロリズマブ群で高くなっていた。脳転移のある患者の場合、ペムブロリズマブ群はTPSが50%以上と1%以上の両者とも奏効期間の中央値の時期に達していなかったが、化学療法群ではTPSが50%以上の中央値は7.6か月、1%以上のそれは8.3か月だった。また、安全性プロファイルについても脳転移の有無にかかわらず、ペムブロリズマブ群では治療が可能な内容になっていた。ペムブロリズマブ単独療法は、脳転移の治療を受け、状態が安定している患者も含めたPD-L1陽性進行NSCLC患者への標準治療になると、著者らは結論づけた。
ペムブロリズマブと化学療法の併用
先述の報告と同様に、KEYNOTE-021、189、407の各試験で対象になった、ベースライン時に状態の安定した脳転移があったNSCLC患者とそれがなかったNSCLC患者の転帰を調査し、プール解析を行った結果をPowellらが報告している[8]。この3試験では、ファーストライン治療に行ったペムブロリズマブと化学療法との併用と、化学療法単独とを比較検討した[9~12]。全患者1,298人のうち、試験の組み入れ時に脳転移があった患者は171人(ペムブロリズマブ+化学療法併用群:n=105、化学療法単独群:n=66)、
それがなかった患者は1,127人(ペムブロリズマブ+化学療法併用群:n=643、化学療法単独群:n=484)だった。
脳転移の有無を問わず、併用群に単独群以上の転帰の改善効果がみられ
(表1)、OS、PFS、ORR、奏効期間にも同じことがみられた。併用群では脳転移の有無にかかわらず、安全性プロファイルはコントロール可能だった。また、この群では脳転移巣の存在と、CNSに影響を及ぼす有害事象の発現率の高さに相関性はなかった。ペムブロリズマブと化学療法の併用療法は、症状のない脳転移を治療しているかいないかにかかわらず、進行NSCLC患者への標準治療になると著者らは語った。
GIDEON試験:実臨床でのアファチニブの使用経験
EGFR遺伝子変異陽性のNSCLC患者の場合、脳転移が生じる患者の割合は40%から60%に達する[13~15]。ドイツのEGFR遺伝子変異陽性進行NSCLC患者に実臨床でアファチニブを使用して、前向きに評価した非介入GIDEON試験の成績に部分解析を行ったところ、ベースライン時に脳転移のあった患者に臨床活性を示したことを見いだした[16]。同試験には脳転移のある患者49人が組み入れられた(全患者の32.5%)。この割合は、アファチニブに関するランダム化比較試験に参加する同様の患者の割合よりも、かなり高いと言える[17、18]。
脳転移がORRとDCRに影響を与えることはなかった(表2)。CNS病変が予後に悪影響を与えるように、脳転移のない患者に比べてそれがある患者ではPFSの中央値が短くなった(脳転移がある群は10.6か月、脳転移がない群は16.0か月)。解析を行った時点ではOSの中央値の時期に達していなかった。安全性プロファイルに関してはLUX-Lungピボタル試験の報告と同様であり[18~20]、アファチニブの投与期間中に生じた有害事象は脳転移のある群とそれがない群で差異はなかった。以上のデータを考え合わせると、脳転移のある患者へのアファチニブの有効性と安全性ははっきりしており、この患者への治療に使用する根拠になる。
参考文献:
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